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トモミは高校3年の時のクラスメートで、俺たち3人は同志だった。
同志でありながら俺と統也は彼女をめぐって密かに恋敵の関係でもあった。互いがそれとなく彼女にアプローチをした。俺はトモミを真剣に愛していたが、彼女はおそらく統也を好いていたのだと思う。しかしどちらかが彼女の恋人となることはなかった。彼女はずっと俺たち二人の親友を通したのだ。
「だからもういない」
統也は手にしていたグラスを置いた。消え入りそうな声で「そうか」とだけ呟いた。
しばらくその端正な横顔を両手で覆い黙った。
「様態が良くないようだというのは風の便りで聞いていた。姿がなかったからもしやと思っていたが……。とても残念だ」
やがて統也は腕時計に目を落とし、
「会の途中で申し訳ないが、もう時間だ。私は失礼する」
とグラスを置く。
「まだ話は終わっていない」
「残念だがアサバ、お前の話は聞いてやれない。私はもう行かなければならない」
立ち上がろうとする統也を制した。
「そうはいかない統也。いや――」
そして顔を正面から見据える。
「――リアム・モラレス、またはキング・リアム」
統也の目の色が変わった。
「まだある。王統氏(ワン・トンシイ)」
「――」
「全部お前の別名だ」
統也は俺の腕をつかむ。表情を消したような顔をして首を傾げてから、ふっと力を抜いた。「なんのことだ」
「とぼけても無駄だ。俺はこの二十数年間ものあいだ、お前を追い続けてきたのだ。それこそ死に物狂いで調べ上げた。そしてようやくこの機会を得た。お前は俺の前に現れた。運が尽きたのだ」
「何が言いたい」
統也はつかんでいた手を離した。
「統也、俺は裏切り者のお前の目を覚ましに来たのだ。貴様が汚い手段で得た莫大な富のせいで、どれだけの人間が不幸になったと思う」
絞り出すように俺は唸った。
トモミの話題になった時、彼女の死に対して両手で顔を覆ったその姿に、俺は誠実さを求めなかった。二十数年もの間、俺が追い続けた裏切り者の本田統也という男は、いまや世界最大の軍需企業のトップにいる。巨万の富と引き換えに、彼は全世界に殺人兵器をばら撒いている。
許すことのできない巨悪そのものであった。
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