核ノ賛歌

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 俺たちが高校生の頃、世界は軍事的な緊張が一気に高まった。とりわけ民主主義の旗振り役の大国A国に陰りが見え始めており、一気に世界的な情勢不安が広がる。右寄りの大統領は自国民の不安を煽っていた。  東西のパワーバランスが危うく揺れる中で、第3次世界大戦というワードが妙に現実味を帯びていた頃だ。都市部の大学では、第2次学生運動と呼ばれる反戦運動が各地で湧きおこっていた。  俺と統也は高校2年の頃からそうした活動に参加した。反戦のイデオロギーに傾倒した俺たちはやがてトモミを誘う。通っていた高校は公立随一の進学校で、当時もっとも先鋭的な生徒が集まっていた。他にも数名が仲間になった。  統也は学力がずば抜けていた。成績は学年トップ。3年次は生徒会長でもあった。そして大事なことだが反体制派として鼻息が荒かった俺たちグループのリーダーでもあった。当時は若く、皆が尖っていた。統也は徒党を組んだ俺たちの心の支えだった。  しかしその結束に、ひびが入った事件が起こる。その発端は統也にある。  高校3年の秋の文化祭で、俺たちは生徒会と結託して地元テレビ局のコメンテーターの講演会を学校に打診した。講演会は『メディアと世代について』という薄っぺらいテーマを打ち出していたが、これは表向きの看板で、実際は自分たちの企画の前座だった。  コメンテーターは当時思想的にやや過激な市民団体の構成員でもあった。そのつながりで反戦の活動家たちをこぞって集め、ゲリラ的な討論会を企画したのである。俺の提案であった。体制派の風土が根強い高校で、生徒と教員を巻き込んで革新的な風を吹かせるイベントだと息巻いていたのである。  しかし生徒会長の統也が反対をした。統也は「ただの自己満足だ」として自分たちと意見が対立した。結局企画は流れた。 「ゲリラかなにか知らないが、ただ居心地がいい身内が盛り上がって満足しているだけさ。そんなんじゃ何も変わらない」 「じゃあそういうお前は何ができるんだ」  統也の心変わりのような発言を俺は許せなかった。自分が否定されたような気がした。 「今言っても分からないと思う。許せ」  統也はただ笑顔で俺にそう言った。そのことがきっかけで彼との間に距離ができた。  
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