核ノ賛歌

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 高校を卒業して、俺とトモミは同じ大学に進学した。  たもとを分かつように東大に入った統也は、一切俺たちと関わらなくなった。その変わり様に俺は失望した。  裏切られたのだとトモミの前で統也をなじった。トモミは何も言わなかった。後に聞いた噂では、統也は工学部から院に進んだのち、A国に留学して国際的に名高い巨大商社に就職をしたという。とんでもない男だと非難した。彼は結局は利己的で平凡なノンポリに成り下がったのである。  俺とトモミは同じ大学で学内サークルを装った政治活動グループに所属した。はるか昔昭和の時代のヘルメットやゲバ棒のようなシンボルはなかったが、同志の精神的な絆で強く結ばれていた俺たちは、反戦デモや啓蒙活動に明け暮れた。  トモミのアパートに入り浸ることも度々あった。とはいえ肉体的な関係は一切もたなかった。それでもいずれはトモミと結婚するのだと俺は何故か運命のように思っていた。  統也の存在を忘れようとした。後に西側諸国で暗躍する軍需産業の首領(ドン)となったキング・リアムの正体が本田統也であることを知るまでは。  彼とはもう二度と会うことはないと思っていた。
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