核ノ賛歌

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 拳銃を握った手に力を込めた。  運転席から降りて両手を広げた統也の背中に素早く身体を合わせる。背後に迫った護衛の影を確認しながら、俺は拳銃を統也の脇腹に押し付けて足早にビルに突入した。異変を察したらしいビル内には、受付にもエレベーターホールにも人影がない。  セキュリティのかかった奥の通路を抜け、専用のエレベーターに乗り込む。護衛も含め、ひとりも姿を見せていない。異様な緊張感があった。統也の生体認証でロックが解除され、エレベーターが上昇していく。頭上の監視カメラに向かって統也が指示を出す。  ――私たちが降りたら、運転を停止せよ。  最上階のフロアに降り立つ。廊下の先がプレジデントルームであった。  統也を押し込むように中に入る。正面の壁一面にはめられた窓からは、先ほどのホテルラウンジよりさらに高い位置からの夜景が広がっている。俺たちが部屋に入ると背後の扉が自動的に施錠された。 「椅子に掛けるんだ」と指示した。  統也は言われた通りに黙ってデスクのチェアに座る。腕時計を確認してから腕を組み、軽く目を閉じる。俺は対峙するように扉の前に立ち、統也の頭に拳銃を向けていた。 「もういいだろう。拳銃は仕舞え」  統也はチェアにもたれた体をこちらへ向ける。ネクタイを緩めた。 「抵抗する気などない。それよりなんて顔だ、アサバ。そんな顔をしたいのは私、いや俺の方だ。予定が全てくるっちまった」  まるで高校時代に戻ったかのように統也は屈託のない声を出す。 「突っ立ってないでソファにでもかけろ。安心しろ。この部屋はどことも繋がっていない。完全に独立している。車では残念だが話ができなかった。あの車にはセキュリティがかかっている。会話もすべてオンラインで記録されていた」  俺は銃を握ったまま、ソファに浅くかける。統也は頷いた。 「お前は俺に話があると言った。その前にひとつ聞かせてほしい。トモミはなぜ亡くなったのか」  俺は大きく息をつく。  正面で統也は穏やかに凪いだ夜の海のような目をしていた。  
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