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一
「このミノタウロスのモツって美味しいですね鍋島先生」
「ミノタウロスは肩ロースから、カルビ、ホルモンにぼんじり、テイルと捌く部位に無駄がないんですがタン、意外といけますね。たった一体でこれだけ食料が手に入るのでお得なモンスターでした」
「コカトリスの腿肉も歯ごたえがあっていけますよ。どうやって調理したんですか?」
「仮面を上から被せて目を見ないようにして首をキュッと、目を合わせたら死んじゃうので屠殺するのも命懸けでしたよ神崎教頭」
なんだかよくわからない会話が聞こえ、私は目を覚ました。そういえば高校の修学旅行で帰りにバスが崖から転落して死亡したと思っていたが、気が付くと訳のわからない場所にいたようだ。どこでどうなってここで横になっていたのかわからないので、状況を上手く説明出来ない。第一、ここにある来るまでの事が全く思い出せないのだ。そして私と一緒にいる先生たちは一体何を食べているのだろう。
「先生がた、これはどういう状況でしょうか?」
「國府田先生、気が付きましたか! 半年も意識失っていてどうなる事かと思いましたが、気が付いて良かったです」
そう声をかけたのは家庭科の鍋島先生だった。
「半年?」
「ここに来てから半年感、ずっと意識を失ったままでしたよ」
「バスの転落事故から、半年が経過してたんですか? 先生がたお怪我は?」
「ないみたいです、しかし現実では行方不明者となり、家族たちが心配してるでしょうが、半年も経てばお通夜も葬式も終わってるでしょう」
「私、死亡したんですか?」
「死亡する代わりにここに飛ばされた。それしか説明する言葉はありませんが。國府田先生も良かったら食べます?」
鍋島先生は陶器の皿に盛り付けた焼き肉のような食べ物を、私に差し出した。
「なんですかコレ?」
「ミノタウロスのタンです、神戸牛に近くて美味しいですよ」
「牛タンみたいに言ってますが、これ食べて大丈夫なんですか? ていうかどうやってミノタウロスとやらを調理したんですか?」
「そこは体育の筋本先生がビシッと倒してくれました、ね先生?」
「いやいや、鍋島先生がミノタウロスの弱点部位を正確に教えて下さったからですよ。感謝感謝」
この状況下で何を和んでいるんだ先生たち、弱点部位ってほぼ食用部位だけど、先生たちが食べて大丈夫なものなら私が口にしても平気かもしれない。
「ひとくちだけ……」
ミノタウロスは筋肉隆々の脳筋な生き物であるから、どの部位も筋ばってて硬いらしく、舌までセンマイを噛んだような歯ごたえがあるし、とても分厚い。噛めば噛むほど旨味がじゅわっと溢れ出して来る白米が進みそうな食感だ。
「お、美味しい!」
「でしょう、半年間この世界の事を調べた甲斐があるというものです」
「調べたんですか? 私が気を失っている間に」
「ええ、食べられる物とそうでない物、薬として使えそうな物とそうでない物を確かめたんです」
「よく体調不良起こしませんでしたね」
「それは一つ一つ、ゴブリンやオークのような部族に試食して貰ったので、食中毒は起きませんでしたよ。彼ら以外は」
「彼ら以外って」ご飯だけでゴブリンやオーク倒しまくって料理のレベル上げてるってなんちゅうやり方してるんだ鍋島先生。
「お薬の調剤も一つずつ、ゴブリンやオークの皆さんに投薬し、効能を確かめているからご安心下さいな。彼らは私の調剤したお薬が体に合わないようでしたが」
保健の保田先生はホホホと笑いながら、薬は問題ないと言うけど、こっちはこっちで薬でゴブリン倒しまくって医療レベル上げてるって、恐ろしいよ。闇雲に色々口にして食中毒起こしてしまうよりはマシだけど。
「鍋島先生と、保田先生と、筋本先生に教頭と、私の他に先生はいないんですか?」
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