第6章.

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 三か月前………スノウが毒を口にした日の翌朝、リーシャが目覚めるとマドロックの姿はなかった。  頭はひどく重くて、なにが現実なのかわからないほど混乱していた。  部屋の隅には小さな平皿に飲み水らしきものが置いてあって、スノウが水を飲んでいた。 しばらくぼうっとしていると、ラウラがやってきて言った。 「リーシャ、あなたには記憶を整理する時間が必要だわ」  まだぼうっとしているリーシャは、この時点ではなにも理解できてはいなかった。  着替えと身の回りのものだけを詰めた旅用の行李がひとつふたつ、馬車に積み込まれている間も、ただひたすらにされるがままになっていた。  ラウラに連れられて馬車に乗り込んだとき、かろうじて「スノウは?」とだけ聞いた。 「スノウはこの家に残るわ。猫にとって環境の変化はあまりよくないと思うから………心細いでしょうけれど我慢してね」  よくわからないまま、その日のうちに王都を出立した。馬車にはラウラが一緒に乗り込んだので驚いた。 「わたしどこに行くの?どうしてラウラ様も一緒なの?」 「行くのはアシュリー侯爵が領主を務めている町よ。そこに、エレノーラ様がいらっしゃる。リーシャは一度あったことがあるはず。………前国王の妃でいらっしゃったけれど、今は王家から籍を除かれてそこで暮らしてるの。マドロック様の母君であられる方」  もやがかった頭の中の記憶の扉がひとつあいて、黒瞳黒髪の艶めいた女性の記憶鮮明によみがえった。  あの人に会いに行くのか、と思った。 『わたしの仕事は人の望みをかなえることだから、困ったことがあったらきっと導かれるよ』 と言っていた。 「導かれているのかな、わたし」  ぽつん、というとラウラは驚いた顔をした。それから、静かに、 「そうね。わたしも昔マドロック様を救うために導かれたことがあるから」 と遠い目を、した。  そこにはリーシャのしらない、マドロックとラウラの物語があるのだ。 「ラウラ様はあのひとと婚約していたって………」 「ナオルから聞いたのですってね。………そうね、旅は長いから、すこし話を聞いてもらおうかしら」  緑玉色の目元が柔らかく細められた。
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