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リーシャの通う王立アカデミーは創立されてまだ日の浅い大学機関である。
学問は、聖職者や貴族の子弟にとっては当たり前のものだった。貴族の子息は小さなころから教師を雇い、作法や教育を受けるためだ。上位聖職者のほとんどは貴族で、小さいころから高度な教育を受けている。
この国では庶民の識字率は決して低くない。それは教会や修道院に付随する学校で初等教育を受けることができるためである。
才あるものが運良く支援者を得てさらに高等な教育を受けることもあったが、なかなかに財力の壁は厚い。
というのが少し前までの話。
王立アカデミーは建前上、十三歳までの初等教育を終え、試験に合格さえすれば庶民貴族の区別なく通える大学機関だが、実際には学部によって階級の偏りはあった。
リーシャは基礎の教養学部である。
教養学部では、文法・修辞学・弁論学・算術・天文学・幾何学・音楽学から将来を見据えて好きなコースを選択できる。複数のコースを選択してもよいし、働きながら長い年数をかけるものもいた。ただし、さらに上位となる神学・法学・医学に進むには、教養学七科をすべて履修していることという条件がある。実際には教師を雇える貴族の方が最速に学位を取得できるため有利、と言う構図にかわりはなかった。
とはいえ、永く世襲制の慣習があった官吏職への道が庶民にも開かれたのは、この王立アカデミーができたからだと言われている。
その日の講義がすべて終わり学舎を出ると、何人かの学生のグループがいくつかあった。ここでもやはり貴族は貴族同士といったぐあいに階級が存在する。
リーシャはどのグループにも属していないから、帰り道はいつもひとりだ。けれどその日はリーシャに気づいて声をかけてきた人がいた。
「リーシャ」
足を止めて振り返ると、仲間に笑顔で断りを入れてから歩み寄ってきたのは、カイル・アルグラントだった。
カイルはリーシャより三年ほど早く入学した先輩で、すでに七科の履修を終えて今は医学を受講していると言っていた。リーシャが入学初日に道に迷っているときに案内してくれた恩人で、それ以来いつもひとりでいるリーシャを気にかけて声をかけてくれる。
「いま帰り?よかったらこのあと時間あるかな」
身内を除けばあまり人と接することのないリーシャだったけれど、カイルとは初対面の時から自然となじむようなものを感じていた。
「時間は大丈夫だけど………」
カイルの友人たちが興味津々にこちらをうかがっている様子に視線を走らせたリーシャの不安そうな表情を察したらしい。さりげなく視線を遮るように位置をかえながら、
「きみに見せたいものがあるんだ。うちへ来ないか」
と言った。
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