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足を止めたリーシャをカイルが怪訝そうに振り返る。空気を読むのに長けた彼は、リーシャの瞳がほんの一瞬だけ陰ったのを見逃さなかった。それはほんのわずかな間のことで、リーシャはすぐに笑顔になっていたが。
それがカイルの目には逆に不自然に映る。この少女がこんな笑顔を見せたことは今まで一度もなかったから。
「リーシャ?」
リーシャは笑顔のままカイルを見上げ、
「紹介してもいいかしら」
と尋ねる。カイルは困惑しながらもちろん、と答えたがどうしても違和感は拭えなかった。
これは自分の知る彼女ではない。
(どうかしている。笑顔の彼女がうそをついているように見えるなんて)
「お友達かしら」
この国ではめずらしい薄紅色の髪の女性を見て、カイルはまたも困惑する。
「学校のお友達です。おうちにお邪魔させてもらって今帰るところで」
「はじめまして。カイル・アルグラントといいます」
あらら、と口元に手を当てて微笑ましそうに二人をみて、それからとなりの長身の男性をうかがう。その視線を受け止めた男は、
「きみが声をかけたのだからきみから名乗ればいい」
と冷えた声で告げた。
(なんだか機嫌が悪そうに見えるのは気のせいだろうか………)
「あらごめんなさい。わたしは………ラウラとだけ名乗っておくわね」
「もちろん存じ上げています。王立アカデミーの創立にご尽力された御方ですから」
こんな往来であえて王族だと指摘しなかった彼の懸命さに、ラウラは目を細めた。
それから少しの沈黙があったけれど、となりの男は無言のままだ。ラウラが慌てた様子で口を開こうとしたとき、
「紹介するわね、カイル」
と先んじたのはリーシャであった。
「このひとは王立研究院のマドロック様。わたしの養父さまなの」
と。
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