第1章. 現在

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 足を止めたリーシャをカイルが怪訝そうに振り返る。空気を読むのに長けた彼は、リーシャの瞳がほんの一瞬だけ陰ったのを見逃さなかった。それはほんのわずかな間のことで、リーシャはすぐに笑顔になっていたが。  それがカイルの目には逆に不自然に映る。この少女がこんな笑顔を見せたことは今まで一度もなかったから。 「リーシャ?」  リーシャは笑顔のままカイルを見上げ、 「紹介してもいいかしら」 と尋ねる。カイルは困惑しながらもちろん、と答えたがどうしても違和感は拭えなかった。  これは自分の知る彼女ではない。 (どうかしている。笑顔の彼女がうそをついているように見えるなんて) 「お友達かしら」  この国ではめずらしい薄紅色の髪の女性を見て、カイルはまたも困惑する。 「学校のお友達です。おうちにお邪魔させてもらって今帰るところで」 「はじめまして。カイル・アルグラントといいます」  あらら、と口元に手を当てて微笑ましそうに二人をみて、それからとなりの長身の男性をうかがう。その視線を受け止めた男は、 「きみが声をかけたのだからきみから名乗ればいい」 と冷えた声で告げた。 (なんだか機嫌が悪そうに見えるのは気のせいだろうか………) 「あらごめんなさい。わたしは………ラウラとだけ名乗っておくわね」 「もちろん存じ上げています。王立アカデミーの創立にご尽力された御方ですから」  こんな往来であえて王族だと指摘しなかった彼の懸命さに、ラウラは目を細めた。  それから少しの沈黙があったけれど、となりの男は無言のままだ。ラウラが慌てた様子で口を開こうとしたとき、 「紹介するわね、カイル」 と先んじたのはリーシャであった。 「このひとは王立研究院のマドロック様。わたしの養父さまなの」 と。
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