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楽しげに会話をするリーシャが決して自分の方に視線や会話を向けないことに気づいていながら、礼儀正しく友人としてふるまう青年を、マドロックは静かな目で見ていた。
その視線に気づいてさらに緊張している様子も。
カイルが提げているのはリーシャが飼っている猫の名前と同じ花の鉢植えだった。
かなり親しい仲のようだ、とそれだけでもわかる。
リーシャはどこまで自分の事情をこの男に話しているのだろう。
アルグラント商会と言えば、王都でも知らぬもののない資産家だ。
先ほどの驚いていた表情からして、リーシャが王族と関わりがあることを知っていたとは思えない。きっとなんの作為もなく友人関係になったのだろうと、マドロックは思う。
リーシャへの接し方もきちんと一線を引いているし、ラウラの身分を察しても必要以上にかしこまることなくあくまでリーシャの友人としてふるまっている。
決して人品卑しい人柄ではない。むしろラウラの好感度はどんどん跳ね上がっているようだった。
値踏みする視線に耐えかねたのか、とうとうカイルがマドロックに水を向けた。
「リーシャさんを遅くまでお引き留めしてすみません。お送りしようと思っていたのですが、もしご帰宅の途上だったのならぼくはここで」
言いかけたカイルを遮ったのはリーシャである。
「わたしカイルと帰る」
それを聞いたマドロックははじめてリーシャに目を向けて、
「保護者がいるのに彼に手間をかけさせるわけには行かないだろう」
と一蹴した。
すん、と空気が冷える。
まただ。養父の存在を意識するたびに垣間見えるリーシャへの違和感。
「また大学であえるのだから話がしたいならそのときにすればいい」
こちらもまた、親子というには隔たりを感じて、カイルは心配そうにリーシャを見やった。
(彼女はこのひとを憎んでいるのか?)
━━━そう思わずにはいられなかった。
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