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☆☆☆
(ああ、またあの夢を見るのね)
夢の中のリーシャは夢だとわかっていてもその先を見るのをやめることができない。許されない。だから記憶はいつまでたっても鮮明なままだ。
黒いローブ姿の男性がこちらに背を向けてる。
顔を血だらけにして横になっている、動かない女。
黄色く濁った目がじっとリーシャをとらえていたが、瞬きをしていない。
気配に気づいたマドロックが振り返って、リーシャを冷たい目で見おろしている。
『………死んだの………?』
『おまえが殺したんだ』とマドロックが言った。
さすがに今日の目覚めは悪かった。
いつもリーシャを起こしてくれるスノウの愛らしい姿さえ心を整えてはくれない。
心臓がまだばくばくとなっていたが、階下からだれかがあがってくる音は聞こえないから、悲鳴はあげずにすんだらしい。
キシャラおばさんを心配させずにすんでよかった、とほっとした。
以前この夢を見たときは、大きな声をあげて自分の悲鳴で目が覚めた。驚いて部屋に飛び込んできたキシャラおばさんは、申し訳なくなるほどにおろおろとしていたっけ。
ざらざらとしたスノウの舌がリーシャの手の甲を一生懸命なめている。
「うん………朝だね、起きるよ」
眉間を指で掻いてやってから、リーシャはゆっくりと寝台から身を起こした。
今朝もまだマドロックは朝食の席についていない。
安堵しているのを顔にださないように、キシャラおばさんに朝の挨拶をすませる。
「おっはよーリーシャ。スノウのご飯も用意してあるからね」
お礼を言って、スノウのために用意された荒くほぐしたお肉ののった器を受け取る。
「いつもごめんなさい。わたしのごはんだけじゃなくてスノウの分まで」
「ご飯のお世話とたまに外に出してあげればいいだけでしょ?たいしたことしてないじゃない。急にどしたの」
「おいキシャラ、やっぱり作り直さないと………」
勝手口から顔を出したリューさんがリーシャに気づいて、
「おはようございます。お嬢さん」
と口調を改める。
リューさんはこの家のメンテナンスや修繕を請けおってくれている人で、キシャラおばさんの旦那様でもある。
もっともふたりがいるのは午前中だけ。日中はマドロックもリーシャも留守だし、夕食はたいていパンと、夕方頃近くにすんでいるキシャラおばさんが持ってきてくれるお惣菜で済ませる。
「おはようございます。じゃわたし先にスノウにごはんあげてくる」
スノウのごはんを手に階段を上がろうとしたとき、踊り場に立つマドロックに気づいてリーシャの足が止まった。
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