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「おはよう。今日は早起きじゃない?」
すぐ後ろにキシャラおばさんたちがいるのを意識してしまう。気取られないように最新の注意を払わないとならない。
「ああ。………おはよう」
あいかわらず朝の弱い人だ。徹夜明けだったら逆にもう少しシャキッとしているから、昨夜は睡眠をとったのかもしれないがまだ眠そうだ。
「ちゃんと寝台で寝ないと駄目だよ」
「………なんでわかった」
「娘だからでしょ」
本当は顔に書類のインクがついてるからだったけれど言わないでおく。
「またラウラ様にいいつけて叱ってもらうからね。もっと体に気をつけてよ」
「………善処する」
ぶはは、と笑い声がした。
「ラウラといいリーシャといい、センセイって意外と女の人に尻にしかれるタイプだよね!そういえば王立研究院でもモニカが書類の片付けのときにさ・………」
スノウにご飯を食べさせてからダイニングに行くと、キシャラの姿はなくマドロックが食事を済ませたところだった。
斜めに向かい合う席の椅子をひいた。
「今日も遅くなるのか」
彼からリーシャに話しかけるのは珍しいことだった。
リーシャの帰る時間なんて気にしたこと、いままで一度もなかったのに。
昨日カイルを紹介したことが理由に違いない。
「気になるの?」
質問に答えずに問い返すと、彼はじっとリーシャを見つめていた。
「ただの友達よ」
「花をもらっていた」
「それは………わたしがスノウのこと話したことがあったから、それで」
「きみは知らないのかもしれないがあの花は遠方から取り寄せたものだ。野生種ではなかった。わざわざ育てたものだ。ただの友人のためにずいぶんと手間暇をかけるんだな」
それは知っている。カイルの好意の意味になんてとっくに。
リーシャの心がざわざわと騒いだ。
「なんでそんなもってまわった言い方をするのよ。言いたいことはそれ?」
だめだ。いらいらがとまらない。
いつだってそうだ。リーシャにはマドロックの本心がわからない。
「きみがわたしを養父と呼ぶときはたいてい機嫌が悪いときだ」
だからそれがなんだというのだ。自分だって不機嫌だったじゃないか、と思わず言いたくなったけど飲み込んだ。
かわりに疑問が浮かんで、
「………野生種じゃないとかひと目でわかるものなの?」
と尋ねる。
リーシャの険しい表情にマドロックが口を開きかけたが、それよりリーシャの方が早かった。
立ちあがった拍子に椅子ががたんと音を立て倒れたがそんなこと今はどうでもいい。
そうだ。確か昨日持ち帰って、どこに飾ろうかと考えていた。あれからリーシャはあの花を目にしていない。
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