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お花見
桜の開花宣言が平年より5日遅く行われたらしい。
「去年は、葉桜で少し、ガッカリしたんですよ」
お得意様のK氏が、顎髭を撫でながら、思い出したように言いました。
「予想では八分咲きのようですね」
タブレットで確認しながら答える。
「楽しみだ」
ご機嫌はよろしいようだ。
去年の担当者からは、要注意人物だと名簿に〇がついてある。
「このお花見列車もいつも抽選に外れて、キャンセル待ちでやっと参加することができました」
笑顔満開で、興奮したようにまくし立てるC氏。一週間前に空きが出たと聞いて、仕事をズル休みしての参加。
「参加人数も期間も限られていますからね」
本当にいつも、開花時期の予想には悩まされた。
「婚約記念で、あっ、後で写真撮ってくださいね」
嬉しそうに婚約者と並んで、弾むように話すA氏。
「おめでとうございます」
記念旅行として参加する方々も毎年何組かいる。あの不思議で独特な桜色は恋愛面で縁起がいいという噂を、信じているのだろう。
今回もツアーのキャンペーンにはしっかり利用させてもらっている。去年までの担当者が結婚して産休中なので、効果はあるのかもしれない。
ただ、去年のように葉桜だと、意味が逆になるらしい。だから例年よりもキャンセルが出たそうだ。
「冥土の土産に来ましたの。新婚旅行ぶりですわ~」
「ごめんない、おばあちゃんの口ぐせで」
ツヤツヤした元気そうな表情のM氏、可愛いお孫さんと一緒に参加。
「いえいえ、そのくらい前ですと、大変だったのでは?」
「そうそう、分厚い誓約書にサインして、数種類のワクチンも打ったわ、高い保険にも入らされて、もう準備が大変で大変で、おじいさんと喧嘩までしちゃったわ…………そんな、おじいさんも……昨年に……」
俯き言葉を詰まらせる。
「それは……ご愁傷様でした」
「……宇宙麻雀のプロテストに合格して、銀河系シニアリーグで活躍中なんですのよ!」
と、誇らしげに顔を上げて、オホホホッと笑った。
「えっと……」
呆気に取られていると、お孫さんと目が合い、
「ごめんない、おばあちゃんの、最近の口ぐせで」
申し訳なさそうに、また謝った。
「ゴミはちゃんと、持ち帰ってくださいね」
誓約書に参加者全員のサインをもらい終わると、全員に聞こえるように、もう一度声を張り、車掌の帽子を深くかぶり直した。
銀河鉄道はスペースデブリを回収しながら、定時に間に合うように加速した。
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