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ひとまず落ち着こう、わたし。
そう、まずは今世のわたしが誰なのかを思い出さなければ。
えっと、わたしの名前は……。
……わたしの、名前、は?
「チョミラスパベリバとか、げきおこぷんぷんまるとか気にしている場合じゃなくない?」
本を閉じて、元の場所へと戻して、こういう記憶はあるのになぜ……と、驚愕した。
誰にも名前を呼ばれた記憶が無い。
おかしい。
おかしいでしょ、これは。
最初は、前世の記憶が戻ったことで、今世の記憶が押しやられてしまった系の記憶喪失を疑っていたのよ。
だけど、どの棚から本を取り出しただとか、どの道を通ってこの部屋に来たとか、そういった記憶は思い出せるのに、自分の名前がわからない。
そんなことってある?
お屋敷の執事さんやメイドさんらしき服装の人たちからは、『お嬢様』って呼ばれているから、今世のわたしが生活しているこのお屋敷の令嬢だとは思うんだけど……。
鏡、姿見を探さなければ。
顔を見れば、髪の色や瞳の色で、どのキャラに転生しているのかキャラ以外のモブなのか、前世の記憶でわかるかもしれない。
手足の大きさを見ている感じだと、今はまだ幼児じゃないかと思うの。お手てが小さいし、歩く時にバランスを取りづらくてふらつくし、視線の位置が低くて地面までの距離が近い。
……うそでしょ? 部屋を出たいのに、ドアノブに手が届かない。そんなに今の身長が低いってこと?
背伸びをしてみるけれど、それでも届かない。
くっ、転生早々に、こんな試練が訪れるとは。
「お嬢、一人でどこへ行く気だ?」
誰もいないと思っていた部屋に突然響いた声に驚いて後ろに転びそうになったところをモフっとした何かに受け止められた。
もふもふ?
姿を確認しようと振り向くと、そこには艶のある美しい黒い毛並みのふわっふわの巨大な猫がいた。
その瞳は、オパールのように角度によって虹色にきらめく不思議な色だ。
今世の体の記憶をたどっても出会ったという記憶は無いけれど、前世のゲーム知識には、バッチリと記憶されていた。
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