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「ラスボスじゃないですか」
「はぁ!?」
「助けていただきありがとうございます」
「お、おう」
うっかり余計なことを口走ってしまったけれど、体勢を戻して向き直り、ぺこりときっちり九十度でお辞儀をしてお礼を告げておく。感謝の気持ちをちゃんと伝えるのは大切、うん。
このまま顔を上げるのは怖い。
ふわっふわで、もっふもふのその毛を撫でてみたいけれど、前世の記憶がわたしに警鐘を鳴らしている。
今、わたしの目の前にいる巨大な黒猫は仮の姿。
シリーズ三作目のラスボス、悪魔チョミラスパベリバなんて呼ばれている大精霊様ではございませんか。
ちなみにシリーズ三作目でラスボスの前に戦うことになるのは悪魔げきおこぷんぷんまると呼ばれている、こちらも大精霊様が正体だった。
作中では、シリーズを通して登場する『チョミラスパベリバ』と『げきおこぷんぷんまる』は、さっきも言ったと思うんだけど、古代の言葉で『怒り』を意味する名前を付けられた悪魔……というのは、人間の都合でつけられた勝手な呼び方であり、本当は自然界の長の側近のような、大精霊様とか天使様とか呼ぶべき御仁なのでありまする。
やばい、わたし今テンパってる気がする。
言葉遣い大丈夫かな? 失礼になっていないかな?
「そろそろ頭を上げたらどうだ? そのままだと頭に血がのぼるぞ?」
頭を上げられずにいたら、視界にわたしを見上げる黒柴が映り込んだ。
その瞳は、オパールのように見る角度によってキラキラと虹色にきらめいていて……って、こっちはゲーム中で悪魔げきおこぷんぷんまると呼ばれている大精霊様ではございませんか。
「ふぇっ!?」
何が起きたの? なぜ、ここにいるの?
その前に、わたしはいったいどこの誰なの!?
キャパオーバー、というやつに陥ったのだろう。
わたしの記憶は、そこで一度途切れていた。
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