エイプリルフール

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 3月が終わりに近づき、私は、もうすぐエイプリルフールだ、と思った。私は元々、エイプリルフールが嫌いだった。あの事を思い出してしまうからだ。  あの事…。それはちょうど10年前、高校2年生の時のエイプリルフールの日の事だ。私は子どもの頃から、嘘が嫌いだった。嘘をついてはいけない、と子どものころから親に言われて育ってきたというのもあるけれど、私自身、嘘は良くないことだと心から思っていた。嘘をつかれるのは、例えそれが私の為だったとしても嫌だし、自分が嘘をつくなんて以ての外だった。それなのに、そのエイプリルフールの日。私は、嘘をつかなくてはならなくなったのだった。  当時私は、学校の中での人間関係をうまくやっていくことに必死だった。ちょっとへまをすると無視されたりいじめられたりする、そんな不安でいっぱいだった。そういうクラスだったのだ。それがどんなにばかげたことだったとしても、私は心の中でばかばかしいと思いながらも、周りに合わせてついていこうとしていた。  そのエイプリルフールの日。私たちのグループのリーダー格だった女の子が、嘘をつこう、と言った。それはただの遊びのようなものだった。クラスで、いつも一人でいる、物静かな女の子がいた。直接いじめたりしていたわけではないけれど、時々陰口のようなことを、私以外のみんなは言ったりしていた。その子に、嘘をつく。その子の兄が大けがをして入院した、と伝え、嘘の病院の場所を教える。その子が慌てて病院へ向かうのを楽しもうというのだった。  そんなのに加担したくなかったけれど、止めることも出来なかった。そして、リーダー格の子はそんな私の気持ちに気付いたのだろう。その嘘を、私が言うことになった。嫌だったけれど、やらなければ私がハブられてしまう。だから当時の私は、嘘をつく方を選んでしまったのだ。  私は嘘をつきたくないという葛藤で、ぎこちなくなってしまったけれど、その子に嘘をついた。彼女は青ざめ、私から嘘の住所を書いた紙を受け取ると、すぐに教室から出て行った。私のぎこちなさが、迫真の演技に見えたと皆が言った。私は罪悪感でいっぱいになったけれど、それでも、今日だけの事なのだ、そしてただの嘘なのだと、自分を納得させようとした。そして、そこまではまだよかった。本当の問題はそのあとに起こったのだ。
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