エイプリルフール

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 彼女の兄は、本当に事故に遭った。教師からその話を聞いた時、私は何が起こったのか分からなかった。最初は、私が伝えた嘘が、そのまま教師に伝わっただけで、教師も嘘に気付いていないだけだと思った。けれどそうではなく、その事故は本当に起こっていた。  この不気味な偶然を、グループの皆は、私のせいにした。私の言った嘘が本当になったのだと。そんなことはないと誰だってわかる筈なのに、私のせいにすることで、皆は罪悪感から逃れようとしたのだ。結局グループの中でうまくやっていこうとした私の努力は無駄になり、私は、その後、一人ぼっちの高校生活を送ることになった。  そしてそんな経験が、私にとっては枷となり、まともな人間関係が作れなくなった。仕事は何とか出来ているものの、人と話したりすることもなく、黙々と過ごす毎日だ。ただ。一つだけ、楽しみなことがある。  それは、エイプリルフールだ。あれほど嫌いだったエイプリルフールが、二年前から、私は好きになった。いや、好きというのは違う。嫌いではあるけれど、楽しみなのだ。きっかけは、自分の力に気付いたからだ。  二年前、私はその日がエイプリルフールであることを忘れ、職場の人のことを考えていた。嫌な人がいるのだ。その人が職場に来なくなるように、怪我をすればいいのにと想像した。お酒を飲んでいたせいもあったのだろう、そのことを、声に出して言った。するとその人は本当に、怪我をして一週間休みをとったのだ。  エイプリルフールについた嘘は本当になる。それが私の力だ。思えば、親が嘘をつかないようにと強く言っていたのは、この力があるからなのだろう。ただ、条件がある。去年試して分かったのは、自分や人が幸せになる嘘は本当にはならないという事だ。人を傷つけるような嘘だけが本当になる。まぁ嘘なんて、結局そういうものだという事だろう。  今年はどんな嘘をついてみようか。それに、試してみたいこともある。まだ嘘が本当になるかどうかの条件が把握しきれていないからだ。そんなことを考えて、私はとてもワクワクするのだった。
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