大樹の冒険

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◆2 赤い屋根のちいさな家◆ ――――――――――――― ポコロ族の家は、(みき)や枝にぽっかりとあいた(うろ)のなかにつくられる。 家の形にこれといった決まりはなく、それぞれが好みの枝を探しては、自由におもいおもいの理想の住みかをたてるのだ。 アンナとニックは、枝道(えだみち)をかけ走り、赤い屋根のちいさな家へと帰りついた。 青あおとしたツタにおおわれたくぼみに、こぢんまりとおさまった白壁(しらかべ)。 そこには、大小さまざまな丸い小窓があって、そのうちのひとつから、とてもよい匂いがただよってくる。 「ただいまー! おばあちゃん!」 「たいへん! たいへん!」 ふたりは競うように玄関マットをふみこえ、細い廊下をドタドタと走りぬけた。 アンナたちの家は、ななめ上へむかってのびる枝の(うろ)のなかにある。 けっして広くはないが、ちいさい部屋がいくつもあって、その数は両手の指よりも多い。 せまい廊下は迷路のようにまがりくねり、なかには、はしごを使わないとたどりつけない部屋もあるのだ。 アンナは、この冒険心くすぐるちいさな家を、とても素敵だと思っている。 おばあちゃんがいるキッチンは、東のいちばん奥にある。 開けはなった丸い窓から、さわやかな朝日がはいりこみ、かまどにかけた大鍋(おおなべ)からたちのぼる湯気(ゆげ)が、ゆらゆらといい匂いをはこんでくる。 いつもの、おだやかな朝の風景だ。 しかし、ふたりのそうぞうしい足音によって、その空気は一変した。 「嵐がくるわ!」 「嵐がくるよ!」 ふたりは同時にさけんだ。 あわただしい孫たちの登場に、大鍋をかきまわしていたおばあちゃんは、ゆっくりとふりかえった。 「あらあら、それはたいへんだこと」 のほほんとした声でこたえながら、ちいさなおばあちゃんは、かまどで焼けたどんぐりパンをお皿にならべ、ダイニングへもっていく。 ふたりの言葉に、あわてるそぶりはまるでない。 アンナたちは顔を見あわせた。 嵐というのがきこえなかったのだろうか? いや、それはない。おばあちゃんはもともと、とてつもないのんびり屋さんなのだ。 アンナとニックは、バタバタとおばあちゃんのそばへかけよると、両わきから花がらの()しゅうがはいったエプロンを引っぱって、かわるがわるに口をひらいた。 「ねぇ、嵐よ? 嵐がくるのよ!? いそいで家中の雨戸(あまど)をしめなきゃ!」 「外にほしているキノコや薬草も、とりこまないとダメになっちゃうよ!」 おばあちゃんは、そんなふたりの頭を、やさしくぽんぽんとなでた。 「そうかいそうかい。それなら、しっかりごはんをお食べ。ちょうど、おいしいパンが焼けたところなのよ」 「そんな(ひま)ないって!」 「いますぐ作業にとりかからなきゃ!」 せわしないふたりの態度に、おばあちゃんはすこし強い口調でいった。 「アンナ、ニック。たいへんな時ほど、おいしいものをたくさん食べなきゃいけないよ。それが、元気の(みなもと)だからね」 「「……元気の、みなもと?」」 ふたりはそろって首をかしげた。 おばあちゃんはたまに、こうやって、よくわからないことをいう。 「それにね」 おばあちゃんは、ふわりと笑うと、窓の外へ目をむけた。 開けはなった窓からは、そよそよと、ここちよい風が流れこんでくる。 「このぶんなら、夜まで嵐はやってこないよ」 なぜ、そんなことがわかるのだろう? ふたりはますます困惑した。 アンナとニックのおばあちゃんは、うんと長生きしているぶん、とてももの知りだ。 もしかしたら風の声だって、きこえるのかもしれない。 とにもかくにも、こうなってしまったら、ごはんを食べおわるまで作業をさせてもらえそうにない。 アンナとニックは目くばせすると、大急ぎでスープを食器へよそうのだった。
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