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日本の領空内に入ったところで、自動操縦モードに切り替えた幸之助は、銀の懐中時計を手に取る。
現在の時刻は11時50分。
屋敷までの距離を考えると、この車を車庫に戻している余裕はない。
「セット、オートリターンモード」
幸之助の声を認識した機体は、白金川家を目指し、徐々に高度を下げていく。
オートリターンモードを設定しておけば、白金川家のヘリポートに着陸後、元の黒塗りの車両に変形し、勝手に車庫まで戻ってくれる。
さて、このアフタヌーンティーセットを、一刻も早くお嬢様のもとにお届けせねば。
かわいいかわいい、佳南美お嬢様。
幼少の頃よりお仕えし、その成長を見守ってきた。
あなた様の願いを叶えることこそ、わたくしめの至上の喜び。
幸之助はダッシュボードに格納してある、ヘルメットとパラシュートを取り出す。
パラシュートを背負い、ヘルメットをかぶり、窓の外に目をやれば、白金川家の屋敷がはっきりと確認できた。
……高度よし、装備よし。
アフタヌーンティーセットが入った袋をしっかりだき抱え、彼は小型ジェットのドアを開ける。
「お嬢様、すぐに参りますぞーっ!」
幸之助が空へ身を投じると同時に、小型ジェットのドアがひとりでに閉まる。
高度3000メートル、2000メートル、1000メートル。
青い青い空の中、パラシュートが音を立てて広がった。
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