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大きなココ椰子の葉が風に揺れている。
都市部から少し離れた郊外にあるレイの家は、平屋の戸建だ。
庭ではココナツの他、パパイヤ、マンゴー、ドラゴンフルーツ、アボカドなどがあり収穫時期には毎朝新鮮なフルーツが食べられる。
料理と人好きなレイの母、桃笑は地域の住民にモモと呼ばれ、英語も話せないのにあっという間にコミュニティを形成した。
鍵などかけない開け広げのオープンな地域。
変わった料理の香りがすれば、近所の主婦がワラワラと桃笑の元に集まり、無料の料理教室が開かれた。
学者気質である父の修一は、母ほどのコミュニティではないにせよ、「ミャノ」、「シュウ」と呼ばれ頼りにされているようだ。
人とのコミュニケーションと言うのは、結局世界中のどこに居ても本質的には変わらない。
穏やかなところであれ、殺伐としたところであれ、自分以外の人と過ごす事に変わりはないから。
一年前、日本からここに来ることにレイは反対していた。
生まれついた日本でも友達がいなかった。
なのに言葉も話せない外国、ましてや文化の違うで友達ができるとも思えない。
結局逆らい切れず両親に連れられて、異国の離島にやってきた。
ハニと言う友達ができたのが、レイにとって一番大きな収穫だった。
木登り、ロッククライミング、ジップラインやバギー、シュノーケル、岩から海へのダイブなど自然アクティビティに連れ出してくれたのもハニだった。
日本に居たら、できなかった数々の経験を一年の内にハニとともに楽しんだ。
自然が豊かで身近にあるから、身体を使うことが多いこの地域で、レイの体力は飛躍的に増した。
両親とレイは赴任が終わった後の進路について何度も話しあった。
レイの両親はインフラ整備も遅れている、自然豊かなこの小さな島がとても気に入ったようだ。
自分たちの息子を逞しく育ててくれたこの地に、永住することも視野に入れていたが、レイは日本の大学に通うことを希望し、両親を説得した。
11月の学期末まで7ヶ月ちょっと。
それまでに自分はここで何かを掴めるのだろうか。
庭のココ椰子の葉を眺めながらレイは考えた。
そう言えば帰り際、ハニは何を言いかけたのだろう。
明日にでも聞いてみようかな。
綺麗な夕焼けを眺めながら、レイはゆっくりと流れていく一時を楽しんだ。
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