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「おい! レイ!」
通学スクールバスの中で、途中から乗ってきたアリイがレイを見つけ、話しかけた。
レイが振り向くと、アリイ少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべている。
取り巻きのテモとチョセバも同じような笑みを浮かべていた。
「仲良しハニちゃんに学校まで連れて行って貰わなくていいのか? 一人で学校まで行けるのか?」
レイはアリイが肩に置いた手を払った。
「それはハニに言ったら? オレと通学してくれってさ」
冷静なレイの返事に、気色ばんだのはテモとチョセバ。彼らを諌めたのは、アリイだった。
「まぁ、よせよ。ニッポンから来た我らの友人を歓迎するのがオレたちの島のルールだ。」
にやりと笑って、アリイは続けた。
「親愛なるニッポンからの友人にオレたちの島のルールを教えてやろう」
そう言ってアリイは乱暴にレイの肩を抱き寄せた。
レイの耳元で囁く。
「明日の四月一日、島で豊穣の儀式を行うのは知ってるだろ? そこでオレたち成人の儀式があるんだ。この島の男は十七になったら、成人の儀式に出る。それが一人前になった証なんだ」
アリイが伝えたい意図が分からず、レイはアリイに尋ねた。
「成人の儀式って? 一体何をやるんだ?」
「レイ、おまえも明日で十七になるんだろ? オレたちと一緒に島の儀式に出るか? 出るのならば教えてやろう。だけど、無理はするな。儀式には勇気が試される。ニッポンから来たイクジナシのベイビーにはとてもじゃないけど無理だろう」
アリイがレイの耳元でそう囁くと、テモとチョセバは白い歯をむき出して、ニヤニヤした。
「オレたちはお前を仲間だと思っている。もしも儀式に参加するなら、今日の帰り、オレたちと一緒に来いよ。ハニにも誰にもナイショだぞ。男の約束だ」
行ってはいけない、と注意信号が頭の中に響く。
だがレイは、アリイの目をじっと見て言った。
「あぁ、行くよ。儀式にも参加する」
レイ自身がイクジナシだと思われること、それ以上に自分の母国が馬鹿にされていることが腹立たしくなったからだった。
レイが参加の意思を示したことでアリイたちは上機嫌だった。
アリイたちが乗り込んできた停留所より数個先の停留所からスクールバスに乗り込んできたハニは、レイの隣に来ると、顔を覗き込んだ。
「どうしたの? 何か、変なカオ」
「変なカオは、ひどくない? でも、心配ないよ。ちょっと寝不足なだけ」
ハニに優しく答えながら、レイはアリイの挑発に乗ってしまった事に少しだけ後悔した。
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