22人が本棚に入れています
本棚に追加
頭の少年
「……すいたよ」
あれ?今何か聞こえたよな?実験室から出た分別できないゴミを混載廃棄物コンテナに捨てに来た橋爪は、廃棄物を放り込んだばかりのコンテナを振り返った。
「おなかが……空いたよ」
間違いない。コンテナの中から声が聞こえた。
もしかしたら近所の子供が迷い込んで、コンテナの中に入ってしまったのか。
橋爪が通っている西湘工業大学は比較的閉鎖された環境にあり、正門のほかいくつかある通用門は、警備員が二四時間常駐している。それ以外は比較的高い塀に囲まれていて、自由に出入りはできない。どうやって入ったかは分からないが、放っておくわけにもいかないだろう。それに、教職員の子供の可能性もある。
コンテナの中には危険物もあるし、夕方には産廃業者がコンテナの交換に来るはずだ。早く助けた方が良い。コンテナに手を掛け登ると、自身が怪我ををしないよう慎重に内部に下りた。
コンテナの中には、何に使ったか分からないスプレー缶や壊れた治工具、固まった樹脂片や光ファイバーのケーブルなど雑多なゴミが放り込まれていた。
「おなかが空いたよ」
今度ははっきりと聞こえた。声の主は、隠されるよう隅に置かれた大きな段ボール箱の中にいるようだ。
「大丈夫かい?」
安心させるように声をかけ、段ボール箱を開ける。
「ひぃっ!」
橋爪は恐怖で悲鳴を上げた。段ボール箱の中では、頭だけの少年が泣き顔で空腹を訴えている。驚いた拍子に尻餅をいた橋爪は、尻に刺さった金属片に再び悲鳴を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!