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3
ムカつく。身分の低い者を相手にするのは嫌だってことか。
リオは早くこの場を立ち去りたくて、さっさと残りの袋を降ろした。
騎士が、リオに手を差し出しながら言う。
「代金だ。本当に助かった」
「どういたしまして」
リオは素早く硬貨を受け取ると、目も合わさずに馬に乗り、来た道を戻った。
馬が元気になったのは良かったけど、騎士と話したのは最悪だ。あんな目で見られたのはあの時以来だな。いや、あの時は、もっと複雑な…いろんな感情が混ざったような目で…。
「やめだっ、変なことは考えるな!それにしても街に着く前に売れてよかったぜ」
リオは頭を振ると、手の中の硬貨を見た。
「えっ!」
思わず声が出た。銀貨が五枚あった。あの野菜、街で全部売っても銀貨二枚くらいだと思う。売上げの半分をおばちゃんはくれると約束してくれてたから、喜んでいたのに。倍、あるじゃん。
ギデオンは、きっと身分の高い騎士なんだな。年齢からして部隊長か?でも身分の高い騎士なら、なんで一人で行動してたんだ?
「ま、関係ないか。もう会うことはないし」
リオは、美しい顔なのに、目の下に隈があるギデオンの怖い顔を思い出して、狼領主はあんな顔をしてるのかもしれないと思った。
狼領主とは、王都から遠く離れた辺境の地を治める、狼様と呼ばれる領主のことだ。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら即座に威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話しているらしい。
「そんなに怖いと聞くと会ってみたくなるんだよな。確か…ここの隣の領地だったな。もしかしてバッタリ会うかもしんねぇし、次は狼領主のいる土地へ行ってみよう」
次の目的地が決まり、楽しくなってきた。
荷車が軽くなったぶん、馬の足も早い。
夕方に帰ってくるはずのリオが、まだ日が高いうちに戻ってきて、おばさんは驚いていた。
「あれまぁ、もう行ってきたのかい?」
「うん。街に行く途中で売っちゃったんだけど…大丈夫だった?」
「いいよいいよ、売れたんならさ。ありがとねぇ」
「へへっ、じゃあこれ、売上げだよ」
リオはポケットから銀貨五枚を出した。
おばさんは先ほどよりも驚いていた。
「ええっ!こんなに?すごいねぇ。じゃあ、あんたの分はこれだよ」
おばさんは、リオの手から銀貨二枚を取った。
リオは慌てて残りの銀貨も渡そうとする。
「待って待って!最初の約束じゃ、銀貨一枚じゃん。だからおばさんは四枚取ってよ」
「何言ってんの。あの野菜の売り上げは、本当なら銀貨二枚だよ。半分はあんたに渡す約束だったから、銀貨二枚もらっちまうのも悪いと思ってんのに。二枚もらってもいいかね?」
「当たり前だろ!せめてもう一枚取れよ」
「いいって。後はあんたの分。これからも旅を続けるなら、いくらでもお金がいるんだから。本当に助かったよ、ありがとね」
おばさんは、どうしても銀貨を二枚以上受け取ってくれない。リオは仕方なく銀貨三枚を握りしめた。そして挨拶をして村を出て、街に向かって歩き出した。
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