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広い部屋の入口近くの棚に鞄を置いて、使用人は部屋を出ていった。使用人の足音が聞こえなくなるなり、リオは「なんでだよ」と不満を露わにする。
ギデオンは上着を脱いでハンガーにかけると、手招きでリオを呼ぶ。
不満ながらもリオは素直にギデオンの傍に行く。そして部屋の中を見回して、すぐに不満が消えた。
こんな高級宿には、もう二度と泊まれないから、俺専用の部屋を取って欲しかった。だけど、今いるこの部屋は、きっと宿で一番高価な部屋だ。リオが住んでいた家の十倍は広く、使われている家具や調度品も高級品だ。それに中央に大きなベッドがあり、部屋の端にひと回り小さなベッドがある。ひと回り小さなベッドでも、今まで使ったことのあるベッドの二倍の大きさだ。ギデオンと同じ部屋なのは嫌だけど、まあいいだろう、と泊まらせてもらう分際で偉そうに思っていると、背中を押された。
「え?なに?」
「風呂に入れと言っただろう。そこの扉の向こうに風呂がある」
「ええっ!部屋に風呂があるのか?」
「ここは宿の離れになっている。他の客の目を一切気にしないでいい」
「すご…。わあ、風呂も広いね。ねぇ、アンも洗ってあげたいんだけど…」
「いいぞ。湯の温度に気をつけろよ」
「うん、ありがとう」
部屋の奥の扉を開けると小部屋があり、小部屋に備え付けられた棚の上に着替えの服が用意されている。リオがギデオンに振り向くと、「それに着替えろ」と言って扉を閉めた。服の隣には、大きなリネンの布も置いてある。
リオはアンを降ろして鞄を棚に置き、服を脱いだ。下着も脱いで裸になる。ふと目の端に白いものが映り顔を上げると、小部屋の壁に取りつけられた鏡に映る、自身の姿だった。
「うーん、細いなぁ。ギデオンみたいな筋肉がほしい。それに身長も!」
「アン!」
「お、起きた?アンも早く大きくなりたいだろ?だからいっぱい飯を食べような」
「アン!」
ふふっと笑って、アンを抱いて浴槽へと続くガラス戸を開ける。広い洗い場と部屋にあった大きなベッドくらいの広さの浴槽。すぐに浴槽に飛び込みたくなったが、踏みとどまった。
そういえばギデオンに臭いと言われていたんだった。でもさ、直接人に臭いって言う?失礼すぎない?そんなギデオンに対しての不満が湧き上がってくるけど、自分でも確かに臭いと思う。だからリオは丁寧に洗った。
置いてある石鹸も高級品で、とても良い匂いがするし、洗った後の肌がすべすべだ。髪の毛の染料も洗い流すと、指通りが滑らかで、染料で多少傷んだ髪が艶やかになった。
アンの身体も丁寧に洗った。アンの毛並みも灯に照らされて輝いて見えた。
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