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昨日あれから一人で風を出したり、乾いたおでこのタオルを濡らしたり繰り返してるうちに眠くなってしまった。目を覚ませば、もう部屋は明るい。
居間に顔を出せば、エメも私の後ろをついてくる。リクラスさんもおじいちゃんもフリーカさんも揃って……? あれ、リクラスさんがいるのにおばあちゃんがいない。
ひとまず、おばあちゃんのことは置いておいて、あいさつをする。
「おはようございます」
「おはようございます、ミドゥリさん」
みんな各々おはようを口にしながら、ご飯の準備をしてる。おじいちゃんはイスに座ったまま本を閉じた。
「おばあちゃんは?」
「ルーラは、用事ができてしまって来れないみたいなんだ。だから、俺が一緒に帰るぞ」
「おじいちゃんが、一緒に帰る? もう帰るの?」
ぱちぱちと瞬きをすれば、フリーカさんもリクラスさんも手を止めて笑う。おじいちゃんが私を抱き上げてイスに座らせてくれる。ごまかされたのかと思ってじいっと見れば、どうやら違うらしい。
「一緒に帰るけど今日すぐにではないさ。ミドリは魔法の練習をして妖精の街にもう一度行くんだろう?」
あの時、妖精さんにはできるようになったら。絶対とは言えないと約束をしたけど、きちんと魔法を使えるようになってできれば助けてあげたい。
それに、できそうだし。昨日の夜の感覚を思い出して、リクラスさんの手元のお皿を浮かせてみる。下からハンディファンの風を出すイメージで。
「浮かせる!」
パリーンという音と共に、お皿が割れてリクラスさんが驚いていた。
「一人で使えるようになったんですか?」
「ごめんなさい! 割っちゃいました!」
イスから飛び降りて、慌てて駆けよる。拾おうと手を伸ばしたら、フリーカさんに止められた。カケラたちがふわふわと浮いて、ゴミ箱に入っていく。
「ミドリちゃんは、魔法使いに向いてるのかも知れないわね。私が教えるより、ミナコさんのノートだけで学ぶなんて……」
「ミドリ、天才だ! さすが俺とルーラの孫だなぁ」
おじいちゃんが私を抱き上げてすりすりと髭を頬に刺してくる。イヤじゃないけど、ちょっと痛い。
「お皿は……ごめんなさい」
「そんなことはいいんだ、やっぱりミドリは天才だな」
おじいちゃんもフリーカさんも嬉しそうにうんうん、うなずいている。リクラスさんが新しいお皿にパンとベーコンを乗せてテーブルに置く。
「水の魔法もこれくらい使えるかな?」
「ミドリなら大丈夫だ!」
あれ、でもそういえば水の魔法だけじゃ足りないって妖精さんが言っていた。私の適性は、水、火、風、草、太陽。きっとどれか他のものも必要なんだと思う。
イスについて全員でいただきますをしてからご飯を食べ始める。あ、私以外は「恵みに感謝を」みたいなことを言ってた。
パクパクと食べてる途中でおじいちゃんに聞いてみる。
「妖精さんがね、水以外にもって言ってたの。私なら大丈夫って」
「水以外にもか……魔法適性に聖でもあったか?」
聖、イメージで言えばあの光っぽい。守るとか、聖なるものとか、あとよくあるのは浄化。っていうのがよく……
「おじいちゃんもしかして、太陽ってわかる?」
おじいちゃんが食べていたパンをもぐもぐしてから、私の質問に答えてくれた。
「聖と近いのかも知れないな……こっちの世界の魔法ではないが、まぁタイヅォの方だろう」
「やっぱりお父さんの」
お父さんとお母さん両方の魔法を受け継いでいることが、なぜかすごく嬉しい。今すぐお母さんたちに会いたくなるくらい。
「使い方ってわかる?」
「うーむ……ルーラの方が詳しいだろうな」
「おばあちゃんも使えるの?」
「ルーラは聖の適性があるはずだぞ」
なるほど。じゃあおじいちゃんに聞くよりおばあちゃんに聞いた方が早いのか。でも、帰り道で妖精さんの街にもう一度寄ってもらおうと思ってたのに。
あと何日こちらで眠るかわからないし、あと何日この世界にいられるかもわからない。妹も生まれたから、きっと私はそろそろ帰ることになる。
「ほれ、話してみようじゃないか」
昨日のスマホを取り出して、おじいちゃんがスマホに手を振る。
「ルーラ、久しぶりだな」
スマホからおばあちゃんの声が聞こえてくる。おばあちゃん来れなかったけど、元気かな? と覗き込めば、笑顔で手を振ってくれる。
おじいちゃんとおばあちゃんを見比べまれば、まるで親子みたいだ。
「おばあちゃん! 聖の魔法を教えて欲しいの!」
スマホに問いかければ、おばあちゃんもふむ、とうなずく。なんとなく私が言いたいことに気づいていたみたいだ。やっぱりおばあちゃんは私の心の中を読めるんじゃないかなスマホ越しでも。
「太陽の光が降り注ぐイメージだねぇ、草木にかけてみるといいよ。成長がよくなったり、色ツヤがよくなるだろう」
太陽の光が降り注ぐイメージ。ざっくりとした説明だけど、海外の絵みたいなイメージが脳内に浮かんだ。なんとかできそうな気がする。でも、成長とか、色ツヤなんて見てるだけでわかるかな?
「ツボミの付いてる花や、ちょっと萎れかけてる植物にやってみればいいのよ。ちゃんと水もあげてね」
やっぱりおばあちゃんは私の心の中を読めてると思う。と考えていると、リクラスさんがぷっと横で吹き出していた。
「ミドゥリさん、今のは声に出てましたよ」
無意識に、言葉にしていたらしくリクラスさんはお腹を抱えて笑っている。むっとしてリクラスさんをにらみつけたら、私より先にエメが頭突きをしていた。
私とエメは感情もきっと繋がってるんだね。ありがとうを込めて、近寄ってきたエメの頭を撫でる。あとからのそのそと歩いてきたウォンがリクラスさんの足を踏んでいたけど、わざとかはわからない。
「わからないことがあったらまた聞いてくれたら答えるわ」
「うん、おばあちゃんありがとう!」
そういえば、この魔法の道具はどうやって作ってるんだろう? 私も貰えたら、もし戻ってもラビリとお話しできるのに。
おじいちゃんの方を見つめて、お願いをしてみる。
「このスマホ私も欲しいなぁ」
「もちろんいいぞ! こっちにいる間に作ってやろう!」
「二つ作ってくれる……?」
試しに言ってみれば、おじいちゃんの顔が曇る。
「ラビリにはやらんぞ!」
私の考えてることは、おじいちゃんにも筒抜けだったらしい。拗ねたように頬を膨らませるおじいちゃんに、次のお願いはできそうになかった。
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