小学四年生の夏、初めてのおばあちゃんの家

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 おじいちゃんとリクラスさんに髪を拭かれながら、セーフさんたちの冒険を聞く。  聞いてるだけで私までワクワクしてきそうな内容だった。ダンジョンの奥に眠るモンスターを起こして倒してきたらしい。こっちの世界では武力がものを言うのかな? と考えていたけど違うらしい。 「こいつは、だからミドリと付き合う権利をくださいとか言ってな」  ラビリのことを苦々しく言いながら、指さす。おじいちゃんの不満たらたらの顔に、笑ってしまった。私と同じでラビリも、頑張ってくれていたんだと思うと胸の奥が熱い。 「ラビリも頑張ってたんだね」 「ミドリも、よく頑張ったな」 「エメも助けてくれたの。私一人じゃない」 「それでも勇気を出して頑張ったんだろ」  こくんとうなずく。今なら私はなんだってできそうな気がする。ラビリに向き合うために、と思って踏み出した一歩はかなり大きかったようで。私にもこんな力があったんだって、今は嬉しい気持ちとふわふわした気持ちでいっぱいだ。 「俺とこの先も一緒にいてほしい」  ラビリが私の手を握りしめて再度プロポーズみたいな真似をし始める。おじいちゃんもリクラスさんも、もう誰も止めない。 「ミドリがいいならいい」  そっぽを向きながらおじいちゃんが言うから、くすくすと笑い声が漏れてしまった。 「うん、ラビリがいい。ラビリと一緒がいい!」  こくこくと何回もうなずいていたから首が痛くなってきた。ラビリと見つめ合っていると嬉しい涙が溢れてきた。私たちの時間を止めたのはリクラスさんの声だった。 「はい、じゃあご飯を食べたら寝ますよ。もう時間だって遅いんですから!」  両思いになって、恋人になっていい雰囲気だったのに!  セーフさんたちもニヤニヤとして私の肩をぽんっと叩いたり、背中をトントンっとして祝ってくれてるのはわかる。ちょっと、恥ずかしいけど。  ***  疲れてるはずなのに、眠れなくて外で星空を見上げる。たった数日なのに、こっちの世界に来てたくさんのことがあった。ラビリと出会えたこと、エメと仲良くなれたこと。  何よりも魔法を使えるようになったこと。  そして、妖精さんの街を助けれたこと。  思い返せばぎゅっと詰め込まれた思い出たちで胸がいっぱいになる。 「風邪ひくぞ」  肩に掛けられたブランケットが暖かくて、包み込まれるように体を抱きしめた。ラビリが隣に並んで私の手を握る。 「遠いけどさ、俺はずっと思えるよ。なんてたって写真だけで好きになって、ずっと思ってたくらいだからさ」 「私は不安になるかもしれないね」 「不安なんて吹き飛ばしてやるよ。あと、ルーラさんに頼み込んでみるよ。ミドリの街に行けないか」  繋がれた右手がやけに熱くて困ってしまう。ラビリの想いが痛いくらい伝わってきて、体中ぽかぽかだ。 「連絡もするし」  ラビリのスマホを見て壊れてしまったカゴを思い出した。 「壊れちゃったの、あの時のカゴ……」  ラビリに謝ろうとすれば、ラビリは首を横に振る。 「いいよ、ミドリが無事なら」 「あっ」    思い出してカバンから、ブローチを取り出す。あの時の、私の色のブローチ。 「あのさ、ラビリ」 「ん?」 「これ、緑色っていうの。私のところでは」 「これがミドリの色なんだ……」  じっくりと眺めてから、ラビリは嬉しそうに笑う。 「この色ばっかり目で追っちゃいそうだな」 「ふふ、だからね。このブローチは、ラビリに持っていてほしい」  ラビリの手に押し付けるようにブローチを渡す。私がもらったラビリの気持ちへのお返し。 「ありがとう。大切にする」 「うん、よろしく」 「冷えるからそろそろ戻るか」 「そうだね」  パッと離れた手が名残惜しかったけど、うなずいてコテージに戻ろうとする。走ってきたエメにぶつかられて、よろけてしまった。  ラビリの腕の中にすっぽりおさまって、胸がバクバク言ってる。エメは小声で「わふっ!」と鳴いたかと思えばまた走って戻って行った。  何がしたかったの! 「ごめん、ラビリ」 「いや、俺こそごめん」  ぎゅっと抱きしめたままラビリが離してくれない。不思議に思っているとラビリは、私を抱きしめたまま話しだす。 「夕方は、ラリク様にジャマされたから」 「なにそれ」  笑いながらラビリの背中に手を回せば、ラビリの心臓のバクバクと言う音が私にまで聞こえてくる。まるで好きだって、心臓が言ってるみたい。 「ラビリ」 「ミドリ、大好きだ」  ラビリの名前を呼べば、好きだがすかさず返ってくる。嬉しさと恥ずかしさで頭から火を吹きそう。ちゅっと軽くおでこにキスをされたから、顔をあげれば真っ赤な顔をするラビリがそこにいた。 「帰る!」 「待ってよラビリ」 「風邪引かせたら怒られるし」  先にコテージに戻ろうとするラビリは、耳まで真っ赤で。私の方が赤く染まりそうだ。心臓がうるさくて今日は眠れそうにないな。
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