メシ友の彼女

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メシ友の彼女

Taberna(タベルナ)集合』 半年程前に、友人の店で知り合った遠山美鳥にメッセージアプリを使って連絡する。 今日は友人の店に行く事が出来そうなので、久しぶりに彼女を誘う事が出来た。 遠山さんと食事をする。 実は、彼女の食事をする姿を見るのが好きだった。 姿勢よく座り、少しゆっくり食事を口にする。 その仕草が、見ていて好ましく感じた。 『お腹空いた〜』と、席に着きながら言う彼女の屈託のない笑顔も中々に可愛い。 この前は『野菜と鶏肉の天ぷら』がランチで、自分なら一口で食べそうな具材を何口かに分けて食べていた。 遠山さんの苦手な食材を見抜く。 そんな理由で会っていたが、それは次第に理由を変えつつあった。 ◇◇◇◇◇ 「...分かったよ。」 遠野さんがそう言った。 それは、タベルナでのランチが食べ終わった時の事だ。 今日のランチは青椒肉絲定食。 新鮮なピーマンがふんだんに使われた一品だった。 「...何がですか?」 私は“ご馳走様“と手を合わせながら、そう言った遠野さんを見た。 「嫌いなんだ...、ミドリ...」 その言葉に、ドクンッと胸が痛んだ。 ミドリが嫌い。 突然言われた言葉は、『美鳥が嫌い』だと言われた気がした。 「...どう...して...?」 少し声が震えた。 少なからず、遠野さんと私は仲良くしていたつもりだった。 そして私は、遠野さんとの食事をするのが好きだった。 大柄で、偏食な彼。 でも、好きな食事を口にするその姿が好きだった。 大きな口にどんどん、吸い込まれるように消えていく食事。 頬張って食べる訳ではなく、しっかりお行儀よく食べているのにも関わらず、美味しそうに食べるその仕草が好きだった。 なのに、何故? 「...嫌いなの...食べてる時、咀嚼するのが少しゆっくりになるよな?」 遠野さんが微笑みながら、肘を付いて私の顔を覗き込む。 「...え?」 「...だから、嫌いな食材の話。」 「...嫌いな...食材...?」 「そうだって。ミドリ。」 遠野さんは食べ終わったお皿を指さす。 「ピーマン。緑色の野菜だ。」 「...あ、...バレちゃいました?」 動揺した事を必死に隠しながら、私は遠野さんの言葉に答える。 しかし、思った以上に私の動揺は顔に出ていたらしい。 「...ん?...そんなにバレたくなかった?」 遠野さんは、不思議そうに聞いてくる。 「...いえ、そういう訳ではなくって...」 何となく、たった今自覚した、ふんわりとした恋心を見抜かれたくない。 俯いて首を振る。 しかしそれが、むしろ違和感を抱かせたようだ。 「...何か変な事言ったかな?」 会話を逸らすことも出来ず、私は観念する。 「...ミドリが...、き...嫌いだって...言うから...」 躊躇いながら言う私を、少し驚いたように遠野さんは見る。 そんな遠野さんの視線が痛くて、私は顔が赤くなっていく。 よくよく考えれば『何を言っているんだか』だ。 苦手な食べ物の話をしていただけじゃないか。 なのに、『美鳥(ミドリ)』が嫌いだなんて。 「...ははっ、...実を言うと...『ミドリ』は好きなんだ。」 動揺している私に、遠野さんは言う。 食べ物の話だよね? 私は遠野さんをジッと見る。 でも遠野さんはアルカイックスマイルを浮かべ、意図が読めない。 「...遠野さん、野菜...嫌いじゃないですか」 正解が分からない私は、とりあえず『食べ物』の話をしてみる。 「...そうだね。...とりあえず、今日の夜...空いてる?」 今日は週末、金曜日。 残業の予定は無い。 「...はい。特に...予定は無いですけど...」 「じゃあ、たまには『タベルナ』以外に浮気してメシ、食べに行こうか。」 遠野さんの言葉に、カウンター内にいたオーナーが反応する。 フライパンを振りながら『そんな事言ってると、次からは野菜炒めしか出さねぇぞ?』と笑っている。 「『ミドリ』が美味しく食べれるって見せてあげるよ」 子供が何かを企んでるような、楽しそうな笑顔の遠野さんはそう言った。
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