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「あっ......」  パンダの段ボールに無造作にモノを詰めていく手が止まった。転勤による引っ越しの四日前。今度こそ余裕を持ってと立てたスケジュールは頑張れば一日の休みが取れそうだとか思っていた最中のことだった。 「これ、あの子の」  雑貨に混ざっていたのはお試し同棲までしたあの子の私物のゲームソフトだった。4ヶ月の同棲後、別れたあの子の荷物は全部持って帰えらせたのに、どうやら紛れ込んでしまったらしい。  二人でゲームをプレイした時間が否応なく脳内に再生されてほろ苦い。もたれかかった肩からするシャンプーの香りも、ミニゲームが弱くていつも私に頼ってくる仕草も全部覚えているのに。 「......仕方ないなぁ」 * 「勝手に捨てちゃってもいいの?」  半年ぶりの連絡がこんなセリフなのは、きっと可愛げがないのだと思う。見た目は大型犬なのに、中身は仔犬の元カレはいつも私に甘えていた。年下彼氏だからってズルい。たまには私も甘えたいのに、と思うのについつい甘やかしてしまうからフッた。  彼が落ち込んだり元気がなくなってしまったりすると際限なく優しくしてしまうのは、きっと教育上よくないに違いない。だから私の方から手を放したのだ。 (絶対に未練があるなんて思われないようにしなきゃ)  しかし、私の強がりなんて気にも留めないで彼はいつものペースだ。 「違う、ソレ、俺がわざと置いていったやつ。捨てないで。俺のこと、思い出して欲しくてやったのに、半年も思い出してくれないんだから」  シュンとした声で弱々しく私に縋る。情けなくて頼りないと思うのにーーこの声に、私は弱い。 「あぁっ、もう!」  引っ越し前の貴重な一日は潰れたけれど、結果的に人手が増えたため余裕を持って引っ越しが出来た。 「荷物、二倍になったじゃない」 ーーおわり
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