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夏の終わり。
六限目の数学。プールのあとの眠気。かすかにただよう塩素の匂い。濡れた髪。風に膨らむカーテン、蝉の声。
彼は黒板の前に立っている。そこに書かれているのは中学生レベルの簡単な数式。けれど彼にはわからない。その数式の意味も答えも。
「こんな問題すら解けないのか」とあざける教師の声。
日に焼けたクラスメートたちの顔。みんな彼を見てクスクス忍び笑いを漏らしている。他人を見下した、歪んだ笑い。
彼はなんとも思わない。こんなことは慣れっこだった。小学生の頃から何十回、何百回と繰り返されてきたこと。物心ついたときから現在まで、彼のポジションは決まっている。落ちこぼれ、救いようのない馬鹿。あいつよりはマシだと安心できる存在。
だから、どうでもいい。
一番うしろの席の生徒と目が合った。
その生徒は嫌悪の表情を浮かべていた。
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