想いでは美しすぎて(ボーン作)

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想いでは美しすぎて(ボーン作)

「初恋!?。いつの事か思い出すのも困難だ。 この歳になると。最初誰に恋したっけ?」 初老の男は、5歳の孫の質問に真剣に悩んでいる。 「そう、あれは・・・」 男は頭の中で時を戻し始めた。 目に浮かび見えてきたのは、五月雨の季節。 中学二年生だった、あの時の体育館。 僕が淡い感情を抱いている娘が僕の側にいた。 時々、彼女と目線が重なり合う。 トキメキを隠しながら、素知らぬ顔の僕。 その娘も恥ずかしげに目線を逸らす。 熱き鼓動は、 平然を装う僕の気持ちを高鳴らせる。 …恋ってこんなにも、ドキドキするんだ… その時初めて感じた胸騒ぎ。 その娘は、僕より一つ歳下の少女。 学年も違い会話する事も無い。 ときどき、廊下ですれ違う時に感じる 胸の痛み。熱き鼓動。夢みる想い。 ……今の私にはそんな感情も、 起こることもないのだが・・・。…… 私のタイムトラベルはまだまだ続く。 あの娘と初めて会話したのは、誰もいない学校の玄関。 降りしきる雨を見ながら二人は迎えの車を待っていた。 …いつまでも降り続いて欲しい。 迎えの車も来ないで!… と、淡い希望を抱きながら、僕は彼女の横顔を観ていた。 あれから僕達は、自然に会話が出来るようになったね。 でも、君と会話する時は、いつもドキドキしてたんだ。 君が余りにも美しかったから。 君とは、学芸会の演劇も一緒に出演したね。 そして初めての君とのキス。 僕の心に聴こえてきたのは、映画音楽だった。 そうあの有名な曲 「愚かなり、我が心」 あの甘く切ない音楽を聴きながら、 僕は君とのファーストキスをしたんだ。 決して忘れてはいけない想い出を、今になって思い出す。 君との別れは突然だったね。 あれほど元気だった君が、 僕を残して旅立ったね。 僕の知らない世界に一人で逝ったね。 あの時も僕の心に聴こえてきたのは、 「愚かなり!我が心」 だったよ。 君は一段一段、階段を昇る。 振り返り、僕を見ながら一段一段昇っていく。 悲しげにゆっくりと階段を昇る君がいる。 そんな姿が、僕の瞳に映っていたよ。 想い出すよ!君の姿 でも、時は無常だね。 僕も無情だね。 孫の言葉で君を想い出すなんてね。
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