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1.待ち合わせ
デートをしようって言ったのはあいつだ。
とびきり美味しい弁当をごちそうするって言ったのもあいつだ。
めちゃくちゃ山盛りにするから、朝ごはんは控えめにしてきてねって言ったのも、紛れもなくあいつだ。
空は雲一つない晴天。
気温もポカポカで申し分ない。
待ち合わせの見渡し公園にはもうすぐ桜が花開こうと蕾が赤くとんがっている。
向こうの山までくっきりと眺めることのできる街の景色を一望しながら、俺はため息を吐き出した。
と、同時に、ぐぅきゅるるるるーっとお腹が大きく鳴った。
「あー! 腹へった! 腹へったー!」
街の景色に向かってこれでもかと大きな声で叫ぶ。そして、がっくりと肩を落とした。
つい、耐えきれなくなってしまって叫んだことをすぐに後悔する。
完全に体力を消耗した。俺のHPは一気に赤色を点滅させ始める。
さっきまで座っていたベンチに再び倒れる様に腰を下ろすと、スマホをお尻のポケットから取り出した。
時刻は午後十二時二十五分。
お昼はとっくに過ぎている。
待ち合わせに遅れるなんて、真面目なあいつらしくもない。
『晴れたら外でランチにしましょう』
昨日そう言ったのは、俺をいつも追いかけ付きまとう吉野由空だ。
料理が得意で、毎日学校に手作り弁当を作って持ってきてくれる。それはまぁ、良いんだけど。包みがフリフリでヒラヒラな、乙女丸出しのピンクのハンカチにリボンの付いたランチトートなのは、毎回少し、恥ずかしい。
特定の友達しか寄り付かない問題児な俺とは真逆な真面目で優等生な彼女。だけど、やることは結構肝が据わっている。
さすがの俺も、最初のうちは引いてしまっていたけれど、毎日続けば慣れてくるものらしい。今では吉野がそばにいることが当たり前になっている。そして、俺はそれを受け入れている。慣れとは恐ろしいものだ。
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