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2.事故った⁉︎
表示されている名前を見て、一気に怒りが込み上げてきた。
耳にスマホを押し付けると、俺は叫ぶ。
「おいコラ、お前なぁ、待たせすぎなんだよ! 何してんだよコラァ!」
巻き舌で怒りをぶつけるが、向こうからは何も聞こえてこない。ますます俺の怒りのボルテージは高く上がっていく……
「……っ……ご、め……った……」
「あ"ぁ⁉︎」
聞き取りにくい向こうの言葉に、こちらはますます苛立ち大声になる。
「事故って、しまいまして……」
「……は?」
一言だけはっきり聞こえて、すぐに通話は終了した。
は? 事故った? 事故?
怒りはスッと引き、一気に背筋が寒くなる。
頭の中では、鈍臭い吉野が車に轢かれる映像が勝手に流れてくる。
事故った? だからいつまで経っても来なかったのかよ。
は? え? どうしたらいいんだ? 俺は。
おろおろと右往左往していると、「おーい!」と後ろから呼びかける声が聞こえてきた。
振り返ると、慌てた顔をしていつもつるんでいるやっちが重たそうに大きな体を揺らして走ってくる。
「は、はぁ、はぁ……朔太郎、大変だぞ!」
息も途絶え途絶え、血相を変えて立ち止まったかと思えば、膝に手をつきいつまでも整わない荒い息と格闘していて、次の言葉がなかなか出てこない。
「吉野になんかあったのか?」
まさかと、俺はやっちに詰め寄る。
「……大変なことになってた……さっき……助けようと、したん、だけ、ど……俺、もう限界……」
そのまま、しんどそうにやっちは芝生の上に寝転がった。まあるいお腹がぽっこりとして上下に揺れている。
「お前もうちょい痩せろよ」
呆れつつも、吉野のことが気になって仕方がない。
「吉野は? 今どこにいるんだ? 救急車は? 病院は?」
まだ、はぁはぁと息を荒くしているやっちを問い詰める。
「……もう、お腹いっぱいだよ」
最後の命を振り絞るみたいに、やっちは俺のことを人生やり切った様な眼差しで見つめたかと思えば、その目をゆっくり閉じた。
「……ぐごー、がー、すぴー」
「いや、寝んのかーい!!」
やっちの広々とした額に思わずツッコミのチョップを入れるが、やっちはぴくりともせずに幸せそうな表情をして眠っている。
なんなんだよ、こいつは。
つーか、吉野が事故ったってのに、あんなに慌てて来たくせに、お腹いっぱいとか、意味わかんねぇ。単に昼飯食べすぎたのか?
とりあえず、こいつはここに置いて行っても良いとして。
俺は、急いで吉野の家に向かおうとした。
その時──
「ごめんなさーいっ! 前田くーん!」
向こうから手を大きく振って走ってくるのは、吉野だ。
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