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いつもの制服姿とは違って、お弁当の包みみたいなピンク色に淡いレースがふわふわと揺れるワンピースを着ている。
髪の毛は普段きっちりと三つ編みしているのに、今日は後ろでふんわりと一つにまとめているからか、少し大人っぽくも見える。
途中でつまづいて転びそうになるから、俺は慌てて吉野のところまで走った。
「お前大丈夫なのかよ!?」
勢いのまま吉野を抱き止めると、顔を覗き込んだ。
見た感じどこも怪我をしている様な形跡はないし、事故にあった様な格好でもない。顔色は……?
「吉野、お前もしかして熱あんのか!?」
真っ赤な顔をして目を泳がせている吉野の額に手を当てる。
「ん? べつに、熱くはないな……」
おかしいなと思いつつ、吉野の目をじっと見つめる。
「……ま、前田くんが……ち、近いから……」
節目がちに俯いた吉野に、自分が心配するあまりに距離感がバグっていたことに気がついた。
慌てて吉野から離れる。
「あ、わ、わりぃ! ……ってか、事故ったんじゃねーのかよ! 怪我とかしてねーの?」
照れを隠す様に、俺はわざと強い口調で吉野から目を逸らして聞く。
「あ、あのね……」
もしもじと、でも、すこし悲しそうな顔をして、吉野は肩にかけていたトートバッグからいつも学校で渡してくれるのと同じお弁当の包みを取り出した。
「ごめんなさいっ!!」
「え?」
深々と頭を下げる吉野の行動の意味がわからない。
ごめんなさいって、なに?
俺、まさかフられんの?
一瞬、心臓がグサリと何かに突かれたように痛くなる。
「……たくさん、作ったんですけど、おかずとか、おにぎりとか、来る途中でですね、転んで、しまって……」
ゆっくりゆっくり、吉野は言葉をこぼし始める。とりあえず、フられるわけではないことに気が付いて、俺は吉野を連れてベンチに座った。
事の経緯を話してもらわなければ、何が何だかわからない。
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