第一章 狐の唄

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 周囲が薄暗くなり始めた中で目を凝らすと、その場所には僅かに薄くひび割れたような、しかし規則正しくも見える細かい模様が全面にあった。お雪は広い岩場かとも思った。想像力を働かせ塩の原かとも考えた。荒野の窪地では稀に小さな塩の塊が転がっている。  集落が忽然と消えてしまって跡地を見ているのかとも思った。そして益々狐に化かされているように彼女は感じ始めた。  だが次第にお雪は好奇心が勝り始め、やがて光景に魅かれ始め、不思議な懐かしささえ感じて近寄りたくなった。  お雪は歩き始めた。だが少し進んだ時、ふと何気なく右方に目を遣ると彼女の気をそらすものがあった。  ごく低い丘の上に、幾つかの岩と数本の木々があった。それらは周囲から孤立し、そこに集って憩う姿にも見えた。  お雪は少し冷静になったように勇む足を止め、それらが気になって進行を右直角に転じ、なだらかな斜面を登って行った。まだ柔らかい粉雪が斜面には既に積もり始めており、彼女の足跡が小さく点々と残った。降る雪は細かくたくさん、空から落ちてきた。  憩いの場所に来ると、雪を被った大小の岩は生えるように地からそびえていた。数本の木々は岩の間を縫うように直立していた。それらは松なのか檜なのか別の木なのかお雪には分からなかったが、三本だけのあの兄弟の木々よりもどっしりと立派に見えた。
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