プロローグ

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彩仁は、小学校に入っても、あまり変わってない様に見えた 俺が色々考え、悩んでいるのに、彩仁は、いつも笑っていた それなのに、成績は優秀で、俺は焦り始めた 自分が社長になんて野望はなかった けれども、自分だけ仲間外れにはなりたくない 俺も彩仁と同じ、加賀美の家の一員として認めて貰いたい そう思えば思う程、人から評価される事に敏感になっていった 俺の家では、時々食事会やパーティーがあり、俺達が出席する事もあった 以前は何も考えていなかったのに、皆が、俺を品定めしているかの様に思えてくる 堪らず、そっと彩仁の後ろへと隠れると、 「佐久間の所へ行こう」 「食べ物取りに行こう」 と、手を引いてくれた 安心した 頼もしかった それと同時に、これじゃダメだと思った 中学に入ると、益々彩仁と過ごす時間は少なくなっていった けれども、いつも笑顔の彩仁を見る度に、俺は置いていかれる訳にはいかないと、とにかく必死だった 少しずつ、彩仁の俺を見る目が変わっていった 「伊織、少し休憩しない?」 「伊織、たまには美味しい物でも、食べに行かない?」 彩仁は、時々そう言って誘ってきた 彩仁は、そうしていても余裕なのだろう 俺は彩仁とは違う 休んでる暇なんてない 断わって勉強する俺を見る彩仁は、可哀想なものを見ているようだった 彩仁と話す時間はどんどん減っていった けれども、それでも構わないと思った 期待通り、彩仁と同じ大学に入れた 後は、父の会社に入れば、傍には彩仁と佐久間が居る どうせ、これからの長い時間、俺達はずっと一緒に居る事になる 時間をかけて、少しずつ話していけばいい それでも俺は、何処かで怯えていた 父の元で、今度は仕事としての能力を評価されるようになるのだ 俺に、どれ程その能力があるのか 彩仁は? 社長の息子なのに…… 俺だけ、そう思われるポジションを与えられたら…… そうして大学を卒業してすぐ 彩仁は消えた 何が起きたのか理解出来なかった まるで、旅行にでも行ったかの様に、部屋には色んな物が残ったまま、彩仁だけが居なくなっていた 身代金の要求がある訳でもなく、旅行用のバッグや、財布等が失くなっている事から、誘拐や事件ではなく、家出なのだろうという結論が出た 家出? 彩仁が? ようやく大学を卒業して、これからという時に? もはや、彩仁の考え等、微塵も分からなかった けれども、誘拐でも、事件でもないと聞いた俺は、良かったと思った 彩仁は、自らの意思で家を出て行った 彩仁に気兼ねせず、彩仁と比べられず、俺は父の会社で、彩仁に与えられるべきポストに就く事が出来るのだ
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