皇先生

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「では、改めてお聞きします。九条先生からの話だと、あの子は、少し複雑な環境に置かれてるとの事ですが?」 「はい。……結君の父親は、1ヶ月前に交通事故で結君の目の前で亡くなっています。母親も幼い頃に亡くなっています。事情があって、結君は、自分の故郷からたった1人、一度も会った事のない、父親の知り合いの元へと訪ねて来ました。私は、その人の部下ですが、古くからの知り合いでもあり、複雑な事情を知った上で、結君の面倒を見ています」 「結君には、親戚が居ないのですか?まだ未成年のあの子を見てくれる人が居なかったのですか?」 「親戚は……」 ほんとは居るけど 「居ないようです。ただ、幼い頃から近くに居た人達は、とても親切で……おそらく、あの子が望めば、何でもしてくれるでしょう。……結君は、牧師の息子なんです」 「なるほど。そうでしたか……。それで、今回の発作について、何か思い当たる様な事はありますか?」 「……それが…よく分からなくて」 「その時の状況を詳しく話してもらえますか?」 昨日の状況を、思い出しながら、出来るだけ詳細に話す 「なるほど……。その、渋滞してた時に見えてた物を、覚えていますか?」 「見えてた物……ですか?前後に車。少し先に、警察官が居て、赤色灯で誘導してて、パトカーと、事故を起こした車が2台。後は、信号と……それ位ですかね?」 「窓は開いてましたか?」 「いえ、雨が降ってましたので」 「音は?何か聞こえましたか?」 「警察官の笛の音が、僅かに聞こえましたけど……雨の音で、ほとんど聞こえませんでした」 (すめらぎ)先生が、細かくメモしていく 「発作が落ち着いてから、気になる事は?」 「驚いた様子で、ぼーっとしてて、帰ってからすぐに眠って、でも、夜も早めに眠りました。一緒に寝てたら、一度夢にうなされてる感じだったので、起こしてあげると、その後また朝までぐっすり眠っていました」 「夢に関して、何か言ってましたか?」 「いえ、目覚めた後も、特に怖がってる感じでもなく、大丈夫だと言ってまた眠りました」 「そうですか……。あまり長く結君を待たせる訳にもいかないので、この辺にしておきましょう。これからも結君の1番近くに居るのは、如月さんですか?」 「……今のところは、そうですね」 「あまりにも……あの子の人生で、今、色んな事が変わり過ぎています。恐らくは、PTSDによる、フラッシュバックが起こったのでは、と思いますが、今の時点で本人にあまり詳しく聞く事は出来ませんので……。出来れば、安心出来る人が傍に居てくれるというのが、何より大切です。可能な限り傍に居て、何か気になる事があるようなら、受診の時でも、九条を通してでもいいので、教えて下さい」 「分かりました」
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