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「加賀美さん、なかなか家に帰れないって聞いたんですけど、ここに住んで、ここで仕事出来ないんですか?」
「職場と自宅が一緒だと、休日がなくなるらしいよ?自宅は自宅で職場から離したかったんだって」
「なるほど……」
「叶さん」
「何?」
「俺が来てから、確実に加賀美さんの仕事とか、考えなきゃなんない事とか増えてるんですけど……加賀美さん、休めてますか?」
本当に心配してる顔
未だに正体も明かしてもらえなくて
優しい言葉の1つも掛けてもらえなくて
自分は散々な目に会ってるのに……
「大丈夫だよ。皆馬鹿だけど、仕事は出来るんだ。加賀美 伊織も社長の息子とは言えスピード出世だし、加賀美 伊織が数日倒れても、佐久間と透哉でどうにかなる位には2人共優秀だし」
「そうなんですか」
「あ、馬鹿って言ったのは内緒ね?」
「ふっ……はい」
少しは安心したかな
仕事が出来る分、余計に仕事が回ってくるのは、言わないでおこう
「結、今日はゆっくりしたから、明日は何処か出掛ける?どんな所行きたい?」
「え?……何処も……行かなくて大丈夫です」
って言うよなぁ
「じゃあさ、俺の新しいスーツ選ぶの手伝って?」
「えっ?!俺、スーツなんて分かんないです!」
「大丈夫、大丈夫。なんとなく、格好良く見えるとか、優しそうに見えるとか、頭良さそうとか、爽やかな感じとか、結の見た感じでいいから教えてよ。お店にはプロが居るからさ」
「……そういうので良ければ…」
「決まり!結とドライブ楽しみ~」
こんな時、喜ぶんじゃなく、困った顔をさせてるのはどう考えても、馬鹿叔父だ
ほんとムカつく
「結、ちゃんと髪乾かした?」
「えっと……一応」
「ん~?まだ全然乾いてないよ?」
「うっ……乾かします」
ドライヤーをかけ始めたけど……
珍しく、嫌そうだな
「何?結、ドライヤー苦手?」
「……少し」
1度ドライヤーを止めてやる
「え?」
「ドライヤーの何が苦手?音?熱さ?風?全部?」
「えっと……今は風が…苦手です」
「ん?今は?」
「小さい頃は全部が苦手で……あまりにも俺が逃げ回って泣くから、その内両親も諦めたみたいで……」
母親が亡くなったのは3歳だったかな
「両親が諦める位って、凄いね」
「大きくなってからは、自分でドライヤーかける様になったんですけど……やっぱり風が苦手で……あ、でも…考えてみたら、掃除機も苦手なので、音なのかも……」
「そっか。でも、風邪引いたら大変だ。風と音、弱くするから、俺がドライヤーかけてもいい?人にやってもらうの苦手?」
「いえ。たまに父さんも同じ様に言って、やってくれてたので、大丈夫だと思います」
「……そっか」
中1で、もう両親との思い出が途切れてしまうなんて、少な過ぎだよなぁ
母親が亡くなっても、父親が居れば、母親の話を聞いたりも出来ただろうけど
父親が亡くなった今、思い出話をしてくれる人も、共有出来る人も居なくなったんだ
「この位でいいかな。頑張ったね、結」
「…………」
鏡の中で、結が驚いた顔をして、固まっている
「結?」
「あっ、すいません。父さんも、全く同じ事言ってたので、ちょっとびっくりしました」
「……そっか」
「ドライヤー、ありがとうございます」
「うん。行こ」
なんとなく……
何かに近付いた気がする
鏡の中の結は、あのままだと泣きそうだった
けど、声を掛けた後の結は、いつも通りに戻ってた
結は……
ちゃんと泣けてる?
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