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俺だって
「……と、いうわけで……明日叶が、結君と出掛けたいって」
仕事終わりに、朝比奈 結の部屋へと寄ると、透哉が、今日の様子を報告してくる
今日も叶とぐっすりか
「だ、そうですよ?どうしますか?」
「……この子がそれを望むなら、そうしろ。発作が起きた時の対処は伝えておけ」
「了解」
この前は失敗した
少し大人気なかった
ここで、ゆっくりしていくといいと
そう、伝えてやろうと思ったのに、なかなか伝えるタイミングがない
その間に、俺以外の奴等が、どんどん距離を縮めていく
「一体俺は……いつになったら話せるんだ……」
それにしても叶の奴
俺が、この位の時間に来るだろうと、分かってるはずなのに、昨日も今日も熟睡だ
透哉が報告するとは言え、腹が立つ
布団を剥がすと、今日もしっかりくっ付いている
それで、この子が安心するならいいだろう
だが、叶の奴はムカつく
朝比奈 結の背中に回してる腕を、そっとずらしてやる
すると、
「……ん~……」
すぐに朝比奈 結の背中へと、腕を戻す
何だこいつ
「調子に乗り過ぎだ」
そう言って、もう一度腕をずらすと
「…ん~~…透哉…Ferme-la!……」
何だ?
そう言って、また腕を戻した
こいつ!
「おい!……」
俺が叶に掴みかかろうとすると、腕を掴まれ止められた
「叶を起こしたら、結君も起きてしまうかもしれませんよ?」
佐久間の腕を振り払い、透哉を睨んでやる
「………透哉、さっき、こいつは何て言ったんだ?」
どうせ、ろくでもない事言ったに違いない
「え?え~っと……静かにして下さい……かな?」
「そんな丁寧な言葉じゃなかったな。俺に黙れと言ったのか?」
「違う違う!透哉って言ってたろ?俺だと思ったんだって!」
透哉が弁明してる横で、佐久間が溜め息を吐いている
「はぁ…結君を独り占めされたのが悔しいからと言って、寝言にキレないで下さい」
「……何だと?俺が、いつ悔しい等と言った?」
「はいはい。明日の昼でしたら、昼食しながらで良ければ、1時間位時間が取れますよ?透哉、なるべく会社の近くで、いい店を予約しておいてくれ」
「了解」
明日の昼……
早く話した方がいいが……
随分と急だな
次は失敗出来ないぞ
お前に出来る範囲でいいから、優しい表情と話し方を心掛けるんだな。少しは、如月から学べ
九条の言葉を思い出す
透哉から………
佐久間と明日の打ち合わせをしている透哉を観察する
真面目そうな顔
ふざけた顔
笑った顔
話し方は……
あんな、ふざけた話し方出来るか!
「ん?何だ?伊織。俺にそんな熱い視線送るなんて、珍しいな」
これを……どうやって真似しろと言うんだ?
「佐久間」
「はい」
「お前に、透哉の様に話せと言ったら、出来るか?」
「……はあ……」
佐久間は、1度俯き、メガネをクイッと上げると、
「何だ?お前、透哉みたいに話したかったのか?なんだ、なんだ~。さっさと言えよ~。ほら、透哉。伊織に教えてやってくれ」
「なっ……」
佐久間の、こんな話し方……初めて見た
「お前……俺以外には、そういう話し方してるのか……」
「まさか。こんな話し方、人生初です」
「そうか……そうだよな……」
良かった
佐久間は、俺と同じ人種のはずだからな
「何故すぐに、そんな風に話せる?」
「さあ……?私が有能な秘書だからでしょうか?」
「ぶはっ!……くっくっくっ……佐久間お前……自分で有能なって……くっくっ……」
これと同じ様になど、出来るか!
「九条に、優しい表情と話し方を心掛けろと言われた。俺は、透哉の様には出来ない。どうすればいい……」
俺は、彩仁の様には出来ないんだ……
「伊織が俺の様に?そんなの無理だろ!そのままのお前で、優しさアピールするしかないだろな」
「透哉の言う通りです。今の私の様に、突然慣れない事をしても、相手は驚くだけです。九条が言ったのは、透哉になれと言う事ではありません。透哉の様に、結君の気持ちを考えた言動をしろと言う事です。1度も会った事のなかった伊織に、お礼と心配の言葉をかける子です。笑顔などなくても、気持ちは伝わるはずです」
「……はぁ……そうか」
「はい」
笑顔など……
とうの昔に、何処かへ置いて来てしまった
幼い頃は普通に笑っていたはずだが……
どうやって笑っていたんだか……
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