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車に乗り、体勢が変わっても、結君は、全く起きる気配がなかった
伊織の気配があれば安心するのか……
バックミラーで見ると、時々、結君の頭を撫でている
撫で方が彩仁と同じか……
不思議なもんだ
伊織は1度も見た事はないというのに
ふと思い出す
そう言えば、幼い頃2人を見て不思議に思った事が、何度もあった
もうだいぶ忘れてしまったが、階段を上る時も下りる時も、2人の1歩目は必ず同じ方の足だったり
突然、同じタイミングで同じ歌を歌い出したり
俺は不思議で驚く事なのに、2人にとっては、当たり前で何でもない事のようだった
独りっ子だった俺は、少し羨ましかったのを思い出した
車の中で話してると、自分で結と呼びたいと言った事に気付いてなかったらしい
それなら、俺はいつになったら話せるんだと呟いて、今日の食事会が予定された事にも気付いてないのだろう
寝不足は人相が悪く見えると言うと、しっかり眠って来て、こんな必死になるとは思わなかったな
そろそろ結君の、学校の手続きやら、引っ越しの手配やら考えておくとするか……
車から降りて、エレベーターへと乗り込む
まさか、このエレベーターを、こんな幸せな理由で使う日が来ようとは……
副社長室に出て、そのままプライベートルームへと向かい、結君をベッドに寝かせる
今度は、大人しく伊織から離れてくれた
伊織が布団を掛けて、ベッドから離れると
「ん~……」
寝返りをして、横向きになったかと思うと
?
手を出して、時々動かしては、シーツを掴み、また離しては、手を動かして、シーツを掴んでいる
何か夢でも見ているのだろうか?
すると、伊織がスーツの上着を脱ぎだした
かと思うと、結君の顔と手の間に、そっと置いた
すると、結君が、上着に顔を埋めて、満足そうに微笑むと、す~す~と眠り出した
さっきまで傍にあった、伊織の痕跡を探してたのか……
「どうして分かったんです?」
「……さあな。時々見に来てやれ。目が覚めて、知らない場所だと驚く」
「そうですね……シャツも涙で濡れたでしょう。着替えて下さい」
「……佐久間。彩仁の……亡くなった時の状況を……詳しく調べてくれ」
「……畏まりました」
「時間も……天気も……気温も……分かる事は全てだ」
「……はい」
彩仁が亡くなったと知っても、伊織から、いつ、どの様に亡くなったのか、調べろとは言われなかった
さすがに、結君が来るというのに、何も知らない訳にはいかず、簡単に手に入る情報だけ集めた
だが、伊織の心情が分からない以上、どこまで伝えるべきなのか分からず、交通事故で亡くなった事と、その場に結君が居たという事だけ伝えた
分かる事は全部……
彩仁の死を
ちゃんと受け止める準備が、出来たのだろうか……
彩仁の息子の結君の為に……
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