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せっかくの機会なのだから、俺も話さなければ
話して、朝比奈 結がどうしたいのか探って、これからの事を決めなければ
「お前は……中学1年だろ?父親が亡くなった後、どうやって暮らしていたんだ?」
「……俺の母さんは、俺がまだ3歳の時に亡くなりました。それからは、父さんが全ての事をしてくれて……だから、俺も大きくなるにつれて、色々手伝うようになってって……」
彩仁が全てを……
加賀美の家を出てから、そんな事が出来るようになるまで、どうやって暮らしていたんだろう……
「こんな事言ったらおかしいと思われるかもしれないけど……なんとなく父さんは、俺が大人になる前に死ぬって思ってたんじゃないかなって……」
「……どういう事だ?」
「ほんとの事は、分からないけど……母さんが居ないから、万が一に備えてただけなのかもしれないけど……料理を含めて、俺1人でも生活していける色んな事を教えてくれて……全然裕福な暮らしなんかしてなかったのに、ちゃんと俺の為の貯金がしてあって、そういうのとか、父さんの保険金とか、俺じゃ分かんないような事を、代わりにやってくれる人まで決まってて……まるで、いつ死んでもいいように準備してたみたいでした……」
本当は俺に頼みたかったのだろうか……
妻を亡くしてすぐに手紙を送ってきた彩仁……
あの手紙には、自分に何かあったら息子に会って欲しいと書いてあった
どうして、そう思ったのかは分からないが、俺がまだまだ続くと思っていた未来が、そんなに長くは続かないかもしれないと、彩仁は思っていたのか……
だったら……1度くらい会いたかった
「あの……だから俺、ちゃんと生きていけるんです。きっと…教会の人達も、俺が困ったら助けてくれます。父さんは、加賀美さんに面倒見てもらいなさいとは言いませんでした。ただ……詳しい事は分からないけど、父さんにとって、凄く大切な人だって事と、俺に会ってもらいたいって思ってたのは分かるから……どうしても会ってみたかったんです。加賀美さんの都合も聞かずに来て、沢山迷惑かけてすいません。あの……俺が居る事で大変な思いばかりさせてしまって……その…もし帰った方がいいのなら、帰ろうと思います」
帰る?
今、こいつは帰ると言ったのか?
いきなり来て、人を散々振り回した挙げ句、今度は突然帰るだと?
俺が彩仁の何かも分かってないのに?
俺はまだ、こいつの名前すら呼んでないのに?
「……そうか。勝手にしろ」
「え?」
「佐久間、如月に、帰る為の準備を手伝うように言っておけ」
「あ……あの……」
「悪いが、仕事が残ってるんだ。これで失礼する」
「あ……今日は、ありがとうございました」
後ろから朝比奈 結の声が聞こえたが、俺は、振り向かずに歩いた
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