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隠し続けていた何かが露呈した瞬間だった。 ユナが模様の浮き出た顔で、僕の手の中にある魔物の肉を見た。次にリュイ、その次に僕と色褪せた瞳の視線が移動する。 「あなたたち二人の願いは、私が魔物の肉を食べることなのよね」 僕とリュイが同時に頷いた。 ユナが呟いた。 「じゃあ、私からもお願いがあるの。ねえ、ロビン」 「なに?」 「この国のみんなが、まともなご飯を食べられるようにして──私たちだって、本当はゴミを食べて生きてることくらい、わかってるんだから」 胸の奥のやわらかい部分を掴まれたような気になった。合成獣(キメラ)の危険性を指摘して、忠告して、ただそれだけで人の行動が変わるはずがないのに。 酷く恥ずかしく、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 「わかった……頑張るよ」 ユナが残念そうな顔になった。 「ごめん。必ずそうする、って約束できなくてごめん。でも、僕はずっと方法を探してる。探し続けるよ。そのために研究者になったから」 心の底からそう思って答えたからだろうか。 ユナは素直に応えてくれた。 「わかった。私はあなたに協力するわ。必要ならラル族のところへ行く」 殺気が膨れ上がった。リュイだった。 「俺は、ユナがここから居なくなることを望んだわけじゃない!」 「私は、みんなが安全なものを食べて、安心してお腹がいっぱいになればいいと思う」 ユナがそっとリュイの手を握った。 その拍子にアームカバーが少しずれる。 目を背けたかったけれど、見ない訳にはいかなかった。リュイの腕の皮膚には、やわらかな羽毛が生えていた。遺伝子変異が始まっているのだ。 「お願いリュイ。これを逃したらもう無いよ。一生抜け出せない。ロビンと一緒に行っても抜け出せるかわかんないけどさ。足掻こう。生き足掻こうよ。リュイも生きて。ゴミみたいな食べ物なんかに負けないで──……私はきっと帰ってくるから、その時まで頑張って。私も頑張る」 「本当に帰ってくるのか?」 「勿論」 ユナが笑った。すっきりとした笑顔だった。 服の中の指輪を出して、リュイに見せている。 「これ読める?」 「いや……模様は考えたけど、ラル族の言葉を全部教わったわけじゃないから」 「この言葉はね──『お腹が満たされても、心が満たされないと意味がない』っていう意味があるの」
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