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タハヴィア国の泥レンガの壁に、少女が絵を描いていた。画材は炭や灰だろうか。美しい円と幾何学的な模様が組み合わさって、壁に大輪の花が咲いているようだった。
たいしたものだ、と見つめる僕の視線の先で、少女が満足気に頷いた。腰に下げた布で、手の汚れをぬぐっている。痩せてはいるが、貫頭衣から伸びる手足は健康的な気配をまとって見えた。
ラル族の族長が言っていたのはたぶんこの子だろう。
思い切って声をかけた。
「はじめまして」
少女がこちらを見た。
そのウェーブがかった黒髪が動作に合わせてゆれる。
色褪せた緑色の瞳と僕の視線が見えない音を立ててぶつかり合う。
ぱちぱちとはじける泡のようにいろんな気持ちが沸き上がっては消えていった。
僕は彼女にとっては異国の青年だ。余所者の匂いがするだろう。怪しまれないよう、笑顔を浮かべる。
「僕はロビン。魔物と魔法と食料問題について研究をしているんだ。町の案内を頼めそうな人を探していてね。きみは、そういうのお願いできる人?」
真昼の雑踏の中、少女の声は不思議とよく通って聞こえた。
「ええ、もちろん」
拭いたばかりの手を差し出してくる。
「ユナよ」
その手を握る。
直後、ユナがにっこりと笑って僕の手を引いた。
「どこへ行きたいの? 連れて行ってあげる」
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