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そうか、そうだよな、とリュイが頷いた。
「わかった」
「リュイ、叩いてごめんね」
「ううん。俺たちこそ黙って……騙すような真似してごめん」
「いいの、お陰で死なずに済んだみたいだし」
笑い合う二人を目にしながら、僕は必死で考えた。この二人に、現実主義のリュイに、僕がしてやれること。
リュイ、と名前を呼ぶと、リュイが僕を見た。
「次の季節までに、遺伝子変異を抑える薬を持ってくるよ。この国を支配する錬金術師と医師たちは結託している。研究者である僕ならきっと手に入れられる」
暗い目でリュイが言い捨てる。
「高いんだろ」
「君の命ほどじゃない」
リュイが顔を大きく歪めた。
頼むよ、と小さな声が聞こえる。
うんと頷いて、僕はユナに向き直った。
魔物の肉を差し出す。
ユナが僕を見た。
「ロビン、ありがとう」
その言葉を、素直に受け取れなかった。
僕はユナの命と引き換えに、ユナ自身をとんでもない道に引きずり込んだのかもしれない。
「僕にできることがあれば、なんでもやるよ」
罪悪感でもなんでもいい。今日という日を、この時間を、せめて燃料にして動くのだ。僕にできることはそのくらいだ。
「ありがと」
とユナがチャーミングに笑って言った。
「本当はずっとお腹が空いてたの」
今度こそ、僕の手からユナが魔物の肉を摘まみ上げた。
「いただきます」
かぱっと開かれたユナの口の中に、魔物の肉が消えていった。すうっと顔の模様が消えていく。
リュイがほっとした表情を浮かべた。
そのリュイの右手をユナが握った。ぶんと大きく振って、僕のほうへ来る。
「行こ」
とユナが僕の左手を握る。
僕らは一緒に、スラムの出口目掛けて歩き出した。
【終わり】
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