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「市場がいいな。この国の人が一番よく食べるものを僕も食べてみたい」
言いつつ素早く少女の首元を確認する。首から下げられた紐は服の下に隠されていて、よくわからない。
「気になる?」
気づけばユナがじいっと僕を見ていた。
「あ、ごめん──失礼だったね」
「大丈夫よ。これは祖母からもらったの。タハヴィアの外から来る人は、こういう工芸品? みたいなの、好きなんでしょう?」
引っ張り出して見せてくれた指輪には、ラル族の言葉が刻まれていた。
ラル族はこの地で魔物を狩って暮らす土着民族だった。しかし、侵略者によって追い払われてしまった。
侵略者たちは土地を壁で囲い、自国の錬金術的な文化文明を壁の中に浸透させた。また周囲の木々を切り倒し、ラル族もろとも魔物たちの棲み処を奪った。
僕は、辺境に追いやられたラル族の族長からある依頼を受けていた。
──壁の中に取り残された一族の生き残りを連れ戻して欲しい。
引き受けてしまったのは僕の研究内容もさることながら、ラル族のある体質について知っていたせいだった。
ラル族は魔物を食べなければ早くに亡くなる。
壁の中に魔物の肉は流通していない。そもそも魔物の肉を食べるラル族は侮蔑の対象だった。
ユナが指輪を服の中にしまった。
それとなく切り出す。
「指輪を見せてくれてありがとう。お祖母様は元気なの?」
「いいえ、亡くなったわ。母も」
「……そう。悪いことを聞いたね」
「ぜーんぜん! 兄さんや姉さんが沢山いるもの」
「ユナには兄弟がいるの?」
「血はつながってないけどね。みんなと仲が良いから」
ユナが目で示したのは陰鬱な気配のする通路だった。スラム街への入り口だろう。
通路の壁にはさっきと同じ絵の花が咲いていた。
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