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「ユナが描いたの?」
「うん」
再び通りを歩き出す。
曇りない笑顔に聞いてみる。
「あの花は、沢山の模様が組み合わさってるんだね」
「そうよ! かっこいいでしょ」
何か意味があるのか? と尋ねると、元々この地にあった部族の文字を崩して組み合わせているのだと教えてくれた。
うん、と応じて空を睨む。ラル族の言葉だとしたら僕にも読めるはずだけど、さっぱり読めない。ユナがどこまでラル族について知っているか、探らなくてはならない。
僕の気持ちを見透かしたかのように、ユナが話しだした。
「私の祖母はね、ラル族だったらしいの。でもこの国を作った人たちの一人と恋に落ちて、自ら壁の中に残ったそうよ。母は魔物喰いだっていじめられたけれど、私は違う。魔物は食べない」
自分の手が汗ばんだのがわかった。恋に落ちて自主的に、なんて話は聞いていない。さまざまなしがらみがあって壁の中に取り残され、辛い目にあっているらしい、とだけ聞いていた。
ふと頬に視線を感じた。試すようなその目に「驚いた」と言葉を返す。ユナは僕が思っているよりも沢山、僕のような人と接してきたのかもしれない。
「ラル族って魔物を食べなくても生きていけるの?」
「ラル族っていうか、私はね。だいぶ血が薄くなったから」
「ユナは普段、何を食べて生きてるの?」
「あれよ」
ユナがすっと指をさした。
ちょうど市場だった。
屋台からは漂う匂いに、うっ、とえずいてしまった。スパイシーで、ジャンキーな香りにひそむ獣臭に、顔をしかめずにはいられなかった。
へんな顔、とユナが笑う。
相変らずにこにこした顔で僕の手を引く。
その足取りの軽さに、楽しそうな雰囲気に、なんだか何も考えられなくなって、僕は、ふらふらとユナに手を引かれるがまま、その通りに足を踏み入れた。
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