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中々途切れなかった追手がふっつりと途絶えたのは、路地の暗がりからすえた匂いがしはじめた時だった。 あまりの異臭に立ち止まる。 改めて辺りを見回した瞬間、建物の影から僕を見る複数の視線に気が付いた。ぶわっと嫌な汗が背中を流れる。いつのまにか、立ち入ってはいけない場所に紛れ込んでいたようだった。 昼間なのに肌に触れる闇はひんやりとしている。その闇を通じて殺意めいた何かがはっきりと伝わってくる。 まずい。 でも、どこへ逃げたらいいのかわからない。 やられる、と思った直後、手を掴まれた。 細くて小さな手は、子供の手だった。 「ロビン、こっち!」 ユナの声だった。引きずり込まれた路地の暗がりは一等暗かった。ばさっと布を被せられる。生きた心地がしなかった。僕はどうなるんだ、と震えた直後、もう一度ユナの声が聞こえた。 「動かず静かにしてて。さっきはごめんなさい。(つぐな)うわ。私を信じて」 信じた結果、馬鹿を見るのではないか。そう思わなくもなかった。だけど、急に自分が酷く疲れていることに気がついた。どっと体が重たくなる。へとへとだ。もう動けない。自力で逃げられるところまでは逃げた。後は運否天賦(うんぷてんぷ)だ。 どのくらいそうしていただろう。 もういいよ、という声と一緒に布が剥がされた。 ばつの悪そうな顔をしたユナが、そこにいた。
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