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後
僕とユナは手をつないでスラム街の出口へと向かっていた。
辺りは真っ赤に染まっていて、いつのまにか夕方だった。
「ユナを連れ戻しに来たのは、僕で何人目なの?」
「十三人目よ。ロビンほど私たちの気持ちを逆撫でした人はいなかったな」
「ごめんね」
けらけらとユナが笑った。
「ラル族ってしつこいのよねぇ。部族を捨てて壁の中に残った──つまり、自分を裏切った妻の孫をどうするつもりなんだろ。前の人は『その指輪、きみはラル族の姫だ、正当な後継者なんだ』って言ってたけれど、あんまり戻りたくないなぁ」
ユナとラル族の関係は僕の予想より拗れていた。世間知らずで下調べが足りないばかりに、とんだ依頼を受けたようだった。
苦笑しつつ本心を話す。
「僕にはね、魔物の肉を有効利用して食糧不足を解消しようという目標があるんだ」
ユナがぎょっとした顔で言った。
「え、魔物を?」
ユナの母は魔物食いといじめられていたのだった。
今度は間違えないようにと、ゆっくり言葉を紡いでいく。
「魔物の肉が卑しいなんて一体誰が決めたんだろう。食べても問題ないことは確認されてるんだ。ただ、やはり、抵抗や偏見のある人は多い。だからこそ実際に魔物の肉を食べて生きるラル族の力添えが欲しかった。それもあって依頼を受けたんだけど、でも、別の方法を探したほうがいいのかもしれない」
僕があっさり引き下がったからだろうか。
ユナが、困ったように言葉を続けた。
「あなたは、つまり、その、親切なのよ。そういう人は嫌いじゃないわ。ここに来るからいけないの。ここにさえ来なければ、きっと、とてもいい人なのに」
「そうだね……親切というかお節介ついでに、もう一ついい?」
僕は鞄の中の食料をユナに差し出した。
魔物の肉を乾燥させた携帯用の非常食だった。
ユナ本人はもう魔物を食べなくてもいい、と言うが、そんなことはない。色褪せた目は明らかな栄養不足によるものだ。本当のラル族は瞳の色が何であれもっと深く濃い色になる。このままだと栄養失調で命を失う。
そういった諸々の説明をするより早く、ユナが口をひらいた。
「私は野蛮で高潔なの」
「ユナが魔物を食べないのは知ってるよ、でもね」
「今日はもうお腹がいっぱいだから、これ以上あなたから何かを奪おうとは思わない」
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