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元々学生しか使わないような駅ということもあり、サークル後の駅はがらんとしていて少し寂しい。ホームにも私たち4人の他に、他の部活の子がちらほらといるくらいだった。
扉が開き、先に並んでいた巧さんと瑠那さんが中に入る。私も後に続こうとすると、鞄をぐいっと引っ張られよろめいた。ビックリして私が上を見ると、志波が電車の方を真っすぐに見ていた。
「すみません。俺ら腹減ったんで、飯食ってから帰ります。お疲れっした」
そのまま電車の扉は閉まり、電車が去っていく。私はそれを呆然と眺めていた。
「え? 何で?」
「お腹空いたから」
答えになっていない答えに、私はきょとんとする。
「お腹空かない?」
志波が指で何かを指差す。指の先には駅構内に設置されている立ち食い蕎麦屋があった。
「それはご飯行きませんかって言ってるってこと?」
「……それだけじゃない」
志波は私が何か言う前に立ち食い蕎麦屋の方へ向かって歩いていった。私も慌てて志波の後を追う。
「ねぇ、志波」
志波が突然立ち止まった。それから私の顔を数秒見つめて、自分の髪をわしゃわしゃとする。
「ああ、失敗した! 言うつもりなかったのに……」
「失敗?」
「まぁそういうことだよ。夕莉が思ってるので合ってる」
──お腹空いたね=ご飯行きませんか=会いたい=好き
「理系だからはっきり言ってくれないと分からないよ」
「それもう確信犯だろ。言うか、ボケ」
「でもどっち、とかあるじゃん」
「どっち? 一個しかないだろ。そういうことだよ」
志波は逃げるように立ち食い蕎麦屋に入った。私も彼の後に続く。
そういうこと。心の中で呟いてみる。何だか裸体を見られているような恥ずかしい気持ちになった。心の矛先は志波には向いていないけれど、彼の気持ちはとても嬉しかった。
(了)
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