行間

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 巧っ、と明るい声が聞こえ一人の女が巧さんに駆け寄った。同じダンスサークルの先輩の瑠那(るな)さんだ。巧さんと瑠那さんは付き合っている。二人が一年生の時からずっと。 「後悔しないの?」 「しないよ。多分、した方が後悔する」  私は仲睦まじそうな二人の後ろ姿を見て言った。巧さんのことも大好きだし、瑠那さんのことも大好きだ。大好きな二人の関係に水は差したくない。不安な思いをどちらか片方にさせたくもない。なら最初から私が想いを伝えなければ、いいのだ。後悔はない。告白した方が、絶対に私は後悔する。 「そういうもん?」 「この場合はね」  私はぞろぞろと歩き始めるみんなの後を追って、歩き出した。志波は何か考えるように俯きながら、私の隣を歩く。 「人間さ、本音を隠したがる生き物だよな」 「何突然」  何を考えているのかと思えば、そんなことについて考えていたのか。志波はたまに文学的なことを口にする。本人も文学部に所属しているし、それが影響しているのだろう。私は文学部とは全く無縁の理系学科だから、文学に関してはちんぷんかんぷんだ。 「だってさ、好きなのに好きじゃない態度取る人いるじゃん」 「あーツンデレね」 「それってさ、本音を隠しているってことじゃん」 「まぁ、好きバレしたくないから敢えて嫌いな態度を取るとか、素直になれなくてそっけない態度になっちゃうとかあるんだろうね」  なるほど、と志波が顎に手を当てて言った。 「なんかさ、ドラマで聞いたんだけど」  ドラマ見るんだ、と私は心の中で呟く。いつも本ばかり読んでいたし、芸能人には全く疎いから「ドラマ」という単語が出てくることに驚いた。 「好きな人には、好きって言わずに人は会いたいって言うんだって」 「ほー」 「会いたい人には、会いたいって言わずにご飯行きませんかって言うんだって」 「なるほどね。確かに、私もそう言っちゃうかも」
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