行間

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 これ俺が尊敬する脚本家が紡いだ台詞なんだけど、と志波が説明してくれる。 「だから人間って本音を隠して、別の言い方をするよねって思って」 「確かに。お腹空いたね、って言うのもご飯行きませんかって言ってるようなもんだしね」 「そう考えると、『お腹空いたね=ご飯行きませんか=会いたい=好き』になるな」  私は合ってるけど、何か違うなと思いつつも上手く言葉が浮かばなかった。 「少なくとも俺はお腹空いたねって言う人には好意持ってる」 「そうなの?」 「嫌いな人にお腹空いたねって言う? もしかしたらそのままご飯行く流れになるかもじゃん」 「言わないかも……」  駅までやって来ると、各々の方面や路線に向かって別れた。志波と私は同じ方面なので、いつも時間が合えば一緒に帰っている。それぞれにバイバイと言って、階段を下ると少し先に巧さんと瑠那さんが二人で喋っている姿が見えた。  そうか、二人も同じ方面だった。すっかり忘れていた。いや、忘れようとしていたのだ。 「お疲れ様です」  私はとびきりの笑顔で二人に挨拶をすると、二人が私たちに気が付いて「お疲れー!」と言った。私の隣で志波も「お疲れっす」と挨拶する。 「いやー、夕莉さっきのターンめちゃくちゃ上手くなってたね! すっごいシルエットが綺麗だった!」  瑠那さんが目をキラキラと輝かせながら言った。私はその言葉に少し照れながら「ありがとうございます」と言う。 「全部巧さんのお陰です」 「いや、俺は何も。夕莉の飲み込みが早いのと、センスが良いからだよ」 「いやいや」  間もなく、電車が参ります。そんなアナウンスが聞こえ、夕莉は電光掲示板を見た。電車が近づいているという英語のフレーズが点滅している。電車はクラクションを鳴らしながら駅内に入ってきた。
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