我慢の六カ月・11(side千夏)

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我慢の六カ月・11(side千夏)

 金曜に名古屋に主張と聞かされて寂しさが募っていた。木曜は定時で上がってその足で新幹線に乗ると言っていたけど、駅で電車に乗ろうとする誠くんを見かけたのは偶然だった。 (え……)  足が止まったのはバレたらいけないとかそんな気持ちではない。黒髪の背の高い女の人が誠くんに手を振って近寄っていった。誠くんも警戒心もなくその人に近づいて微笑んでなんだか楽しそうに話し始める。女の人が誠くんに躊躇いなく肩に触れるから――。 (……まって、だれ?その人)  大きめのバックを持って二人で改札の前で話しているとちょうど電車が着いたのかで改札に人の波が溢れて視界が邪魔される。 (出張だよね?仕事って言ってたよね?)  その波の中で誠くんがチケットを取り出して渡そうとする姿が見えて嫌な想像が頭から離れない。 (前日入りするだけで日帰りだって言ってた、金曜には帰ってくるって)  ドンっと人の体がぶつかってよろめく。誠くんを探すともう姿がなくて見失ってしまった。焦りと不安が一気に押し寄せてきてその場に入れなくなって逃げ出した。走ったせいか気持ちか、心臓がバクバクして胸を締め付けてくる。 (やだやだ、なに?あの人。仕事じゃないの?たまたま出会った人?でもそんな感じは全然しなかった)  考えても考えても答えなんかは出ない。それでも考えずにいられなかった。 金曜はとにかく不安に包まれて、でももう帰ってきてくれる、そう思っていた気持ちが夕方入っていたラインで裏切られた。 【地震で新幹線止まって帰れない。今日は名古屋に泊まる】  ニュースでも地震速報が流れて嘘じゃないのはわかる。わかるけれど、本当に地震だけなのだろうかと疑ってしまう。 【夜、電話していい?】  そう送ると19時過ぎに電話がかかってきた。 『最悪なんだけど』  その言葉は本音に聞こえた。うんざりしたような疲れた声で、ウキウキした感じには聞こえない。 「大変だったね、大丈夫?」 『地震?まぁ揺れたけど。地下鉄乗ってたら怖かったかもな』 「新幹線まだ動かないの?」 『いや、なんか徐行運転しだしたみたいだけど、でももう駅も人すごいしとてもじゃないけどチケット取れない。会社の補助が出るホテル取れたしもう泊まるわ』 「……そっか、気をつけてね」  なるべく明るい声で話してるつもりだけど、悶々した気持ちが溢れてくる。 「誠くん、あの……変なこと聞いていい?」 『うん?なに?』 「……あの、地震なかったら帰ってきてた?」 『……なんで?』 「仕事……だよね?」 『…………なんで?』 (聞いてるのはこっちなのに全部聞き返してくるしぃ!) 「な、なんでもない!気をつけてね!帰ってくるの待ってる!」 『……うん、また連絡する』  そう言って電話を切った。不安を拭いたくて聞いたけどなにも解決せず終わった。 (素直にそうだよと言われたところでスッキリするかと聞かれたらそうでもないけど!でもさぁ!!)  変な沈黙は何かを探っているのか、それとも察知してるのかと思うし、聞き返してくるのは向こうも疑っているのかと思うし。 (不安と疑いしか残らない電話だった……)  精神的には強くなったはずだ。付き合いだした頃もこんなことはあったけど、あの時は自分には無理なんだとすぐ身を引こうとした。  その時と今は違う。あの時みたいに私じゃダメなんだと諦めたくない、そう思えるほど自信はついてる。  けど、怖いのは同じだ。もう一緒にいれないの?そう思う不安はあの頃よりむしろ大きい。  だってあの頃より今はもっと彼を好きになっているんだから。
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